三つ巴の悲劇 52 ページ20
恋する相手の登場で、のぼせてしまったらしい白馬を追い返すと、獄寺はため息をついた。微笑みながら白馬を見送る女の姿に、タバコを吸いたい衝動を抑えながら。
「会うのは初めてだろうが……どっかで見たことある気持ちの悪い面なわけだ」
「このわたくしに何て口の利き方を……さすが、あの毒女の弟といった所ね。ま、ビアンキと顔を合わせたのは……片手に入るくらいだけど」
獄寺にとっての他人のような知り合い、二人目である。名を小泉紅子という彼女のことは、姉から伝え聞き、顔写真を一回見ただけだ。だが、彼女のことを話す姉の渋い顔は、よく覚えている。
魔術者の衰退した現代で、唯一の赤魔術後継者。幻術とは一線を画した代物で、マフィアにもたびたび手を貸すのは有名な話。
だが、何より滅多にお目にかかれないその四股は、見た男を虜にする美しさらしい、が。
「全く、どうしてこう、見る目のない男がいるのかしら。世の中の男なんて、わたくしに虜になっていればいいものを」
(もうキッドとかどうでもいい)
だが、実際に対面した獄寺は、苦痛しか感じられない。どことなく姉に似た紅子から、一刻も早く逃れたい。それこそ、獄寺の本音だった。
「ていうか、お前が姉貴に手を貸した話なんざ聞きたくもねぇんだよ。さっさと教えろ、黒羽快斗がどうしたんだよ」
「ああ、そうでしたわね……失礼」
思い出したように言うと、紅子はするりと腕を組んだ。
「最近の黒羽快斗は、周りから見ても神経質になっているわ。中森青子に対しては特に」
「中森……ああ、あの刑事の娘か」
「登下校はぴったりくっついて、家まで送っているらしいけれど。どうにも生意気……」
「お前の見解はどうでもいい。で？お得意の赤魔術はどうした」
憮然とする紅子に、青白い顔の獄寺は促す。紅子は顔を険しくして答えた。
「……波の音が聞こえたわ」
「は？」
的外れな答えに、一気に獄寺のトーンが下がる。だが、勿論それだけじゃない、と続けられた言葉に、獄寺ははっとする。
「囚われた中森さんが見えたわ。恐らくキッドは、予告状を出した相手に彼女を人質にとられたのね」
その代償が十代目の殺害か。心中で納得して、獄寺はそっと息をついた。忘れないで、波の音よ。言い残した紅子の背中を見送りながら、獄寺は呟いた。
「……波の音」
屋上に残ったふたつの影が我に帰ったのは、本鈴が鳴った時だった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 380人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「名探偵コナン」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
三崎 - こちらの作品も、パスを忘れたのでそのままにするつもりです。今は大変な時期ですが、二次元パワーで現実を乗り切りましょう！ (2020年4月22日 16時) (
レス) id: 070c92fbe6 (このIDを非表示/違反報告)
三崎 - 今は「しま」という名前で、うらみちお兄さんやら携帯獣のクロスオーバーやらpixiv投稿をしています。この三つ巴の悲劇も、もし読んでくださる方がいるなら手直ししてupしたいとも考えています。 (2020年4月22日 16時) (レス) id: 070c92fbe6 (このIDを非表示/違反報告)
三崎 - 現在、サイトの再開に向けて物語を進めたり（進んでない）新しい沼を探したりなどしています。もしこの場所を訪れてくださる方がまたいれば、ぜひご一報ください！ (2020年4月22日 16時) (レス) id: 070c92fbe6 (このIDを非表示/違反報告)
三崎 - どうも、作者です。しばらく夢と創作から身を引いていたのですが、このたび大学進学もきまり、ぼちぼち趣味を再開しています。投稿を終えてからもこんなにたくさんの方々に見ていただけて、うれしい限りです。 (2020年4月22日 16時) (レス) id: 070c92fbe6 (このIDを非表示/違反報告)
ゆきな(プロフ) - 続きを楽しみにしてます！これからも無理せずに頑張ってください！ (2019年9月16日 20時) (レス) id: e7791cc44f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：三崎 | 作成日時：2015年7月2日 12時
