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スタッフステーションに戻ろうとした途中で、秋元二郎の奥さんが椅子に腰かけて下を向いていた。
「大丈夫ですか」
「...はい、」
「..休む場所をご用意しますから、どうぞ」
「...夫は、生きたいと思ってるんでしょうか?ほんとに、研究しかない人だったんです..。あの人、ほんとによく頑張ってたんです...それを失って、ほんとに生きたいと思ってるのか、..生きたいのか、私にはわかりません..」
奥さんは目に涙を浮かべながら、そう言った。
俺はまた、何も言ってやることができなかった。
それから24時間があっという間に経過して、秋元二郎の手術が再開された。
「ありがとうございました。」
「ご主人がほんとに生きたがっていたかどうかは、私たちにはわかりません。ですが少なくとも、体は生きたがっていた。」
「肝損傷も腸管損傷も、同じけがで命を落とす人は少なくありません。ですが、秋元さんは生きた。ダメージコントロールは、患者さんの生命力に問いかける行為です。」
「秋元さんの体は、生きたい、と答えてくれた。体が答えてくれるまで、私たちは24時間待った。」
「でも、心が答えてくれるまでにはきっと、もっと時間がかかると思います。」
俺の言葉に、奥さんは涙を浮かべて、頭を下げた。
俺にしてやれることは、これぐらいしかない。
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うたプリ大好き?(プロフ) - 続き気になってます この作品はもう更新されないのでしょうか? (2019年8月16日 21時) (レス) id: 48370e286a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:な。 | 作成日時:2018年12月12日 23時