11 ページ11
.
ー 緋山 side ー
「夜の予約は断りを入れろ。丁重に断れよ」
「はいっ」
「あと、三田さんの畑にも誰か行ってくれ」
「はいっ」
緒方さんは私たちが麻痺の具合をもう一度確認しているにも関わらず、弟子たちに指示をしている。
指先を爪で刺激するが、緒方さんの口からは「痛い」の言葉が一言も出ないし、ほとんど指もこの「痛み刺激」に反応しない。
「中心性頚損だな、後で俺が言っとくよ」
「わかった」
昨日、あんなことがあったのに藤川はいつもと同じように仕事をこなしていた。
でも、その背中はやっぱりいつもと違うかった。
隣の患者を見ようと彼に背を向けると、後ろから「なんでそんなこと言うの?」と緒方さんの隣のベッドの秋元二郎の奥さんの声が聞こえた。
「気持ちはわかるわ、あなたが死にたくなる気持ち」
「ハハハ、それはすごいな。世界中の研究者相手に開発レースを戦ってきた俺の気持ちが、家の中のことしか知らない君が分かるのか。君は凡人だと思っていたが、違うようだ」
秋元さんの声が、金属の音しか聞こえないHCUに静かに響く。
「あなたは今も十分に認められてるんだし、またやればいいじゃない」
「やれるならやってる!!」
奥さんの言葉に、秋元さんは声を荒げて「頼むから俺の前から消えてくれ」と言った。
自分勝手にもほどがあるでしょ、とため息をついたとき、緒方さんが突然「あんたには無理だな」と声を出した。
814人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
うたプリ大好き?(プロフ) - 続き気になってます この作品はもう更新されないのでしょうか? (2019年8月16日 21時) (レス) id: 48370e286a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:な。 | 作成日時:2018年12月12日 23時