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その場にしゃがんで、また轟くんの服の裾を引いた。
予想外だったのか彼はバランスを崩しながら隣に腰を下ろす。
火つけてと線香花火を寄せると、轟くんは頷いて左手に小さな炎を灯した。
同時に火をつけて花火の様子を見守る。
動いたら落ちちゃうからとふたりで黙りこくっている姿は知らない人が見たらかなり奇妙なんじゃないか。
パチパチと弾ける火が大きくなってきた頃、轟くんが小さめの声でわたしの名前を呼んだ。
刺激を与えないようにできるだけ動かずに目だけで彼を伺う。
「あんま可愛いことすんじゃねえ」
『え、』
「勝手に勘違いしていいんだろ」
花火に照らされた轟くんの顔はやっぱりとても綺麗で、見惚れてしまう。
轟くんはわたしを見ている。目が合うと心臓が痛くなる。
好きが溢れる。
動揺が身体に出て手が震えて、彼が何かを言おうとしたタイミングに合わせて玉が落ちた。
同時にあ、と声が漏れる。轟くんが小さく笑った。
「俺の勝ちだな」
彼の持つ線香花火からはまだ火花が出ている。
完全にわたしの負けだ。ちょっと悔しいと感じながら目を逸らした。
悔しいけど、この場から離れたくはなくてぼんやりと彼の手元を見つめる。
盛り上がってきた線香花火。
小さな玉からは想像できないくらい大きな花を咲かせるそれは、突然落下した。終わりはいつも呆気ない。
『落ちちゃった』
「そんなに見られると緊張するだろ」
『え、ごめん』
「……もう一回するか」
花火貰ってくるからここで待ってろ。轟くんはそう言うとすぐに立ち上がってみんなの方へ身体を向ける。
わたしは今にも走り出そうとする彼の服の裾をまた引いた。
さっきよりも力は弱いけど、轟くんは首を傾げてこちらを向いてくれた。
『花火がないと、一緒に居られない?』
これがわたしなりの精一杯。
頭にまで響く鼓動を感じながら、轟くんの目をじっと見つめた。
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有紀(プロフ) - 瑞穂さん» こちらこそ読んでくださってありがとうございます!気長にお待ちくだされば幸いです◎ (2020年4月29日 22時) (レス) id: a38a24a1c3 (このIDを非表示/違反報告)
瑞穂(プロフ) - 続編ありがとうございます!続き楽しみにしてます!! (2020年4月26日 13時) (レス) id: e180184c40 (このIDを非表示/違反報告)
有紀(プロフ) - かぼさん» コメントありがとうございます!続編でもよろしくお願いします◎ (2020年4月20日 22時) (レス) id: a38a24a1c3 (このIDを非表示/違反報告)
かぼ(プロフ) - 続編嬉しいです!!これからも楽しみにしてます(*´∇`*) (2020年4月19日 23時) (レス) id: 5ac4123fb5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:有紀 | 作成日時:2020年4月17日 0時