悲しい恋なんかじゃなかった

忘れちゃったんでしょう？ ページ20

ジョングクの所へ行くと言って、奥の部屋に入っていってしまったユンギさんを見送ってから、

私は身動きもできないままどのくらいここで立っていたんだろう。















…思い返してみれば気になることはいくつかあった。


リビングにある不自然なほど大きな日めくりカレンダー。

必要以上に詳細に書き込まれた顧客名簿。







それから。


















TH「A…！」















『…テヒョン、』









私とジョングクを関わらせまいとしていたテヒョンの行動。








TH「連絡しても返事がないから…。

やっぱりここだったね。」

『…テヒョン、ジョングクが…っ』

TH「…

倒れた？」





すぐに察した様子のテヒョンに黙って頷くと、彼は私の手を握るとそのまま店の出口へと向かう。





『待って、テヒョン！
まだジョングクが、』

TH「ユンギさんが付いてるんでしょ？」

『そうだけど…』

TH「Aが行ったって、できることはないと思う。」

『…そんな、』

TH「忘れてたんでしょう？

Aのこと…」

『…、』




こちらを振り向かずにそう言うテヒョンに、返す言葉もなく、彼に手を引かれるまま歩いていく。



















TH「ごめん、ジョングクのこと。
今日の夜話そうと思ったんだ。」

『…うん。』



家に着くと、ようやく私の方を見たテヒョンが静かに話し始めた。



TH「驚いたでしょ？」



驚いたなんてもんじゃない。


正直、今でもジョングクのタチの悪いいたずらなんじゃないかとすら思ってしまうほどだ。



『私のことは忘れてるみたいだったけど、ユンギさんのことは覚えてた。

ジョングクは、テヒョンのことも忘れてしまったの？』

TH「ううん。

ジョングクは、一年前にあった事故がきっかけで、記憶障害になったんだ。

事故以前のことは覚えてるけど、事故の後のことは覚えていられない。

早いと3日、長くて1週間くらいで全て忘れてしまう。」

『待って。

難しすぎてわかんない。


記憶をなくしてしまった時、ジョングクの頭の中はどうなってるの？』

TH「何も。
ただ普通の朝を迎えるだけ。



…記憶を失って起きるたびに、あいつは事故にあった日の2018年の9月1日を繰り返すんだ。」

『あ…』



だからあの時、ユンギさんがジョングクに確かめたんだ。


確かに、ジョングクは今は2018年だと言っていた。







今は、2019年の秋なのに。

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