25話〜思いでの場所〜 ページ25
「そういえば永夜さんの生まれって、こんど撮影するとこでしたっけ？」
本日分の撮影も無事終わり、帰宅の準備でもしようかと思ったときだった。
スタッフの一人である女性から不意に声をかけられた。
「はい。……でもまあ、そうですね。１０年ぐらい前に今の所に越してきて、それきりなんですけどね」
彼が生まれ育った地を突然離れることになっのは、母親の再婚が理由だった。
別に珍しい話ではない。とてもよくあることだ。
しかしその頃の永夜はまだ中学生だ。思春期真っ只中の彼にとってそれはとても辛い出来事であった。
見ず知らずの男が突然自分の新しい父親と名乗り、親しい友人とも別れ、知らない土地へと放り込まれたのだ。
辛くないはずがない。
「どんな場所なんですか？」
けれども、それはもう過去の話。
「良く言えば、とても緑豊かな場所です」
しばらく考えた後で、永夜は言葉を選ぶようにそういった。
「悪く言えば？」
「何もないド田舎？ ですかね」
彼は苦笑いを浮かべていた。
本当にないもない場所だ。
コンビニへ行くのにもわざわざ車を出さなければならない。学生が遊ぶような施設やショッピングセンターもない。
電車は通っていないし、バスも一日片手で数えられる本数しか来ない。
あの頃はちっとも感じなかったが、不便な場所で生活していたと思う。
「でも……」
これだけは。この思いだけは決して変わらない。
「とても大切な思いでの詰まった場所なんです」
あの地を離れたいまでもはっきりとそう言える。
楽しいことよりも、悲しいこととか、苦しいことの方がずっと多かった。それでもなお、それら全部引っくるめて今は大切な思い出だ。
懐かしそうに言葉をこぼす永夜は、とても優しい顔をしていた。
「きっと、素敵な場所なんですね。撮影の日が楽しみです」
何かを察したようで、女性の言葉は非常に穏やかだった。
「はい。本当に楽しみです」
永夜は微かな願いを、そっと胸に潜めていた。
あの地でもう一度、 “彼” に会えたりしないだろうか、と。
もし、彼と再開することが出来たら、俺はどんな言葉をかけようか。
楽しかったかつての思出話を、今日までの十年間どんなことがあったかを、沢山話したいな。
こんな事ばかり考えていた。
でも、本当は知っている。
仮にあの地で再開を果たしても、きっと俺は彼に “気がづくことはできない” 。
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三零(プロフ) - ハギノ ケイさん» 描写に関してはもっと勉強していきます。いろいろとご指摘、本当にありがとうございます。今後に生かしていけるよう努力していきます。長文失礼いたしました。 (2017年8月4日 0時) (
レス) id: 4cac8f9e1f (このIDを非表示/違反報告)
三零(プロフ) - ハギノ ケイさん» 貴重なご意見ありがとうございます。 ８話と９話の繋ぎ読み直したら、確かに場面が急に飛んでいるようで分かりにくい構成になっていました。修正をすることも考えましたが、申し訳ありません。今回はこのままいかせていただきます。 (2017年8月4日 0時) (レス) id: 4cac8f9e1f (このIDを非表示/違反報告)
ハギノ ケイ(プロフ) - タメ口失礼する。とても好み。語り手の瀬楽が好きな感じが伝わってくる文や瀬楽の描写がとても良い。ただ、8話と9話の繋がりが微妙なのと、さっき述べた描写以外の描写が少ないのが気になる。……もっと隅々に気を使えれば、もっと素敵になる。続きに期待(￣+ー￣) (2017年7月31日 1時) (レス) id: bc75671915 (このIDを非表示/違反報告)
三零(プロフ) - Sly Blueさん» 素敵なコメントありがとうございます。これからも喜んでいただけるよう努力していきますので、応援お願いします。 (2017年7月29日 18時) (レス) id: 4cac8f9e1f (このIDを非表示/違反報告)
Sly Blue(プロフ) - 続きがとっても気になる作品で、今凄くゾワゾワしてます汗 続き楽しみにしてますね♪長文失礼しました。 (2017年7月29日 15時) (レス) id: 69733aeb02 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三零 | 作成日時：2017年7月28日 15時
