23話〜近くて遠い〜 ページ23
もう後戻りなどできない。
それほどまで相ノ木は瀬楽に惚れ込んでいた。
どうしてここまで瀬楽を。と相ノ木自身、そう思うことがあった。しかしそのようなこと、どんなに考えたところで分からるはずはない。
それでも確かな事実として、相ノ木はどうしようもなく瀬楽が好きであること。さらにその感情は日に日に大きくなってゆくことは、はっきりとわかった。
そしてあともう一つ。皮肉なことだか、同時に思い浮かぶようになった考えも大きさを増していた。それは──。
瀬楽の香りが遠ざかる。
「やっぱり、学校で呼び合うのはハードル高かった？」
瀬楽の瞳に、先ほどまでの熱っぽさはもう感じられない。
「……分かってたなら、こんなマネすんなよ」
今の一言で分かった。瀬楽は始めからすべてを察していたのだ。相ノ木が下の名前で呼ぶことができないことも。呼び方の抗議をしようとしていたことも。全部。
だからこそ、尚更分からなかった。どうして瀬楽がこのような茶番を始めたのか。
「拗ねないでよ。俺だってたった一日で “瀬楽” に戻って寂しかったんだから」
真実かどうか疑わしい表情で瀬楽は笑う。
「さあて。じゃあ、そろそろ帰ろうか」
早く機嫌直してね。と言いながら瀬楽は相ノ木に背を向けるように、くるりと回る。
来るときはしっかり握られていた相ノ木の腕も、今は寂しくぶらついていた。
「あっ、一度教室に戻らないと！ 荷物も一緒に持ってくればよかったかなー」
なんて、独り言のように話す瀬楽。その後ろ姿を追うわけでもなく、相ノ木はただぼんやりと見ていた。
(ああ……。瀬楽が遠ざかる)
『そしてあともう一つ。皮肉なことだか、同時に思い浮かぶようになった考えも大きさを増していた。それは──』
それはさ。
瀬楽から向けられるその熱だよ。
それは本当に全て俺に向けているの？
ごめん。本当は瀬楽を疑いたくなんかない。でも、不安なんだ。失いたくない。今さら手放すなんてことできないんだよ。
「……なあ、瀬楽」
「なあに？」
相ノ木の問いに瀬楽は振り返る。しかし相ノ木は俯いたままで、彼の顔をみることができなかった。
「……」
(その瞳に写るのは、本当に俺……？)
「やっぱ、なんでもない！」
こんなこと、聞けるはずない。聞いていいはずがない。
相ノ木は笑顔で瀬楽のもとへと急いだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 46人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
三零(プロフ) - ハギノ ケイさん» 描写に関してはもっと勉強していきます。いろいろとご指摘、本当にありがとうございます。今後に生かしていけるよう努力していきます。長文失礼いたしました。 (2017年8月4日 0時) (
レス) id: 4cac8f9e1f (このIDを非表示/違反報告)
三零(プロフ) - ハギノ ケイさん» 貴重なご意見ありがとうございます。 ８話と９話の繋ぎ読み直したら、確かに場面が急に飛んでいるようで分かりにくい構成になっていました。修正をすることも考えましたが、申し訳ありません。今回はこのままいかせていただきます。 (2017年8月4日 0時) (レス) id: 4cac8f9e1f (このIDを非表示/違反報告)
ハギノ ケイ(プロフ) - タメ口失礼する。とても好み。語り手の瀬楽が好きな感じが伝わってくる文や瀬楽の描写がとても良い。ただ、8話と9話の繋がりが微妙なのと、さっき述べた描写以外の描写が少ないのが気になる。……もっと隅々に気を使えれば、もっと素敵になる。続きに期待(￣+ー￣) (2017年7月31日 1時) (レス) id: bc75671915 (このIDを非表示/違反報告)
三零(プロフ) - Sly Blueさん» 素敵なコメントありがとうございます。これからも喜んでいただけるよう努力していきますので、応援お願いします。 (2017年7月29日 18時) (レス) id: 4cac8f9e1f (このIDを非表示/違反報告)
Sly Blue(プロフ) - 続きがとっても気になる作品で、今凄くゾワゾワしてます汗 続き楽しみにしてますね♪長文失礼しました。 (2017年7月29日 15時) (レス) id: 69733aeb02 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：三零 | 作成日時：2017年7月28日 15時
