2222-80 ページ33
7月の日差しが肌を焼くようだった。これは変装に関わらず、帽子を被ってきて正解だったなと雑踏の中で息を吐いた。
A組の面々がどこにいるかだなんてわからないが、この人混みで探すのは無理があるだろう。まあ私は念の為に様子を見に来ただけだから、遭遇しない方が望ましい。
とりあえずはモール中央部の木の根本にあるサークル型ベンチに足を組んで座った。ここにいれば万が一何かが起こってもすぐに反応出来ると踏んだからだ。
特に買うものも用事もなく、人の波を眺めながら時間が過ぎるのを待った。それぞれの方向に歩く人々は本当に海の様で、なんとなく自由と平和を連想させて微笑ましくなる。ああそうだ、私はこれを守る為に繰り返しているのだと思わせてくれるようで、存外この空間も悪くはないと感じた。
そんな時、微かな寒気を感じた。風邪とかそういう類ではないと直感し、周りを見渡す。少し離れた席で見慣れた癖毛と黒いフードの男が見えた。
顔は見えない。しかし緑谷と恐らくは死柄木弔だと、こちらも直感的にわかった。何をしている……？ 死柄木が緑谷と話しているのはわかる。殺意も無いように見受けられる。喧騒の中で耳を澄ますも、掻き消されて明瞭には聞き取れない。携帯電話で通報をしながら、ひたすら見守っていた。
注意深く見ていると、お茶子がやって来てその男は離れていった。反射的に私はその黒い後ろ姿を追っていた。
ショッピングモールを出て、少し人の捌けた場所で不意に男が立ち止まる。
「つけてきてるなぁ、わかり易く」
そう言って振り向いた男の顔は上機嫌そうだった。
「……緑谷と何を話したの？」
死柄木は私の顔を見てハッとした後、またすぐに口元を曲線に歪ませた。
「お前、USJの時の奴だな」
私があの時襲いかかったのを覚えていたのだろう。額に滲む汗を拭うこともしないまま、睨見続けていた。
「……このまま私といたらあなたは捕まるわけだ」
ここでこいつとやりあっても、一般市民を巻き込む上に下手に未来を変えかねない。でもせめて引き止められたらと話しかける他無かった。
「はは、そうだよなぁ。でもお前、迂闊に俺に手を出せないんだろ？」
そして死柄木はそれをわかっている。ダメ元の“たられば”も不発だった。やはりここでは死柄木を止めることが出来ないのかと顔を顰めた。
「お前はお前で気になるけど、今は駄目だ。またな」
待て、と叫んでも体が動かず結局今回も展開は変わらなかった。
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りっぴい(プロフ) - 作品全部読ませて頂きました！質問なのですが、この作品のように字や背景を変えるようにするにはどうすればいいのでしょうか。 (2018年4月7日 0時) (
レス) id: 72a6f55e69 (このIDを非表示/違反報告)
廿楽(プロフ) - 冷やしチョコさん» 個性が好評のようで嬉しく思います。文才は……大変恐縮です。更新頑張ります！ (2017年8月29日 9時) (レス) id: b2aca56a6e (このIDを非表示/違反報告)
廿楽(プロフ) - ログインしたくない病さん» 評価だけでなくコメントまでしていただけて私はとても嬉しいです。ありがとうございます。 (2017年8月29日 9時) (レス) id: b2aca56a6e (このIDを非表示/違反報告)
廿楽(プロフ) - 牙夢さん» 今回は更新じゃなくて申し訳ありません。続編もお楽しみいただけるように努めたいと思います。 (2017年8月29日 9時) (レス) id: b2aca56a6e (このIDを非表示/違反報告)
冷やしチョコ - 文才があるってこういう事なんだな…としみじみ思います。個性のアイディアが面白いし、何より小説の内容が面白いです。更新楽しみに待ってます！ (2017年8月29日 0時) (レス) id: 691aea1734 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：廿楽
| 作成日時：2017年8月13日 3時
