2222-93 ページ46
部屋の中は騒がしくて、風呂で火照った体を少し冷やそうと思った。確か部屋から少し出た通路にベンチがあったはずだ。
曲がり角に差し掛かった時、誰かが出てきてぶつかりそうになり、急停止する。驚いて声を漏らせば、風呂上がりだからか珍しく髪を下ろしている喩語が驚いた顔をしていた。
どうしてこいつがこんなところに。女子の部屋は向こう側だったはずだが。そう思って質問すると、どうやら自分と同じような理由でやってきたらしく、書き物でもしていたのかノートを片手に持っていた。
そういえば、と今日のことを思い出す。喩語が1番早く施設に着いたらしいが、いったいどうやったのだろう。クソ親父からも聞かされたが、使う度にこいつの個性がわからなくなっていく。聞いても案の定答えたくないみたいで、話題を変えたいのか全く別の話をされた。
どうやらフルーツ牛乳がお勧めらしい。……喩語と同じようなことをすれば、少しは喩語のことがわかるだろうか。はたと閃いて、フルーツ牛乳が売っている場所まで案内してもらうことにした。
それが意外だったのか喩語はやはり驚いたような表情をしていたが、自分から言い出した以上案内してくれるらしく、ついてこいとばかりに前を歩きだした。
喩語は俺のことを嫌っているわけではないのだろうか。
バスでのことを思い出す。ただ単に騒ぎたくないだけだったのかもしれないが、「じゃあ私は寝るから」と早々に窓に頭を預けていた。ああそうか、と邪魔をしては悪いので話しかけこそしなかったが、俺は見たのだ。
窓の反射を、景色を睨むように見つめて何かを思案する、眠気とは無縁の瞳を。話しかけられたくないからあんな嘘を吐いたのだろう。それはわかる。
ただ、彼女が何を思ってあんなに険しい顔をしていたのかが謎だった。確実に何かを隠している。もしくは、何かを1人で計画しているような表情は、どうしても頭の中をちらつくのだった。
「この自販機ね、じゃあ私は部屋に戻るから」
「待て」
気が付いた時には口をついていたその言葉に、喩語は眉を八の字に下げた。まだ何か用があるのか、とでも言いたげに首を傾げてこちらの二言目を待っていた。
「もう少し話がしてえ」
“喩語”を掘り下げるには、会話が必要だと思った。それこそ中途半端に引けば、またはぐらかされてしまう。だから、ストレートに伝えることが最適解だと思った。
喩語は本日3回目の驚き顔を披露していた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1284人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
りっぴい(プロフ) - 作品全部読ませて頂きました！質問なのですが、この作品のように字や背景を変えるようにするにはどうすればいいのでしょうか。 (2018年4月7日 0時) (
レス) id: 72a6f55e69 (このIDを非表示/違反報告)
廿楽(プロフ) - 冷やしチョコさん» 個性が好評のようで嬉しく思います。文才は……大変恐縮です。更新頑張ります！ (2017年8月29日 9時) (レス) id: b2aca56a6e (このIDを非表示/違反報告)
廿楽(プロフ) - ログインしたくない病さん» 評価だけでなくコメントまでしていただけて私はとても嬉しいです。ありがとうございます。 (2017年8月29日 9時) (レス) id: b2aca56a6e (このIDを非表示/違反報告)
廿楽(プロフ) - 牙夢さん» 今回は更新じゃなくて申し訳ありません。続編もお楽しみいただけるように努めたいと思います。 (2017年8月29日 9時) (レス) id: b2aca56a6e (このIDを非表示/違反報告)
冷やしチョコ - 文才があるってこういう事なんだな…としみじみ思います。個性のアイディアが面白いし、何より小説の内容が面白いです。更新楽しみに待ってます！ (2017年8月29日 0時) (レス) id: 691aea1734 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：廿楽
| 作成日時：2017年8月13日 3時
