#8 紅 ページ8
「ねぇ、人間界ってどんなところだと思う?」
「え?」
ホームルームが終わり、各自教室から帰宅帰寮する中、弟者くんが聞いてきた。
「そうだなぁ、魔法がないところでしょー?
想像つかないなぁ」
隣の友人が笑いながら答えた。
「Aは?」
「私も分からないな…
魔法がないってことは、空飛ぶ生き物や動く植物もいないってことなのかな」
「かなぁ?
じゃあ何があるんだろう…」
うーん、と3人で腕を組んで悩んだが、全く想像つかない。
そんな未知の世界に我々は行こうとしている…
「どうしたのでーすか?」
「あぁエルプス先生…
人間界ってどんな所なんだろうって3人で考えてたんです」
「人間界…
そうでーすねぇ…」
担任のエルプス先生はニコッと笑うと、懐から何かを取りだした。
それは円形で、黒くツヤツヤしたものだった。
「これ何?」
「これは紅といいまーす。
今はリップや口紅って呼ばれてまーすが、人間界の昔にはこういう紅が主流でーした」
パカッと開くと美しい真紅に目を奪われた。
「なにこれ…綺麗…」
「先生はこれを肌身離さず持ち歩き、大切な時に使うようにしてまーすよ」
先生は紅を小指に乗せると、「はーい、こっち見てくださーい」と私の顎を持ち上げた。
ちょんちょん、と紅を縫ってくれた。
「うんうん、とっても素敵でーすね」
「Aいいなー!
先生私もー!」
「俺も!」
「リゼスさんはいいでーすが、弟者さんは男性なのでノンノン」
「ダメなの!?」
「これは女の子の武器でーすから」
鏡に映る私は、自分の唇に虜になっていた。
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作者名:華ヶ崎レオ | 作成日時:2022年6月20日 1時