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第1章-2 ページ3

私がされてきたことは、私は大人になっても許せないかもしれない。
 一生傷として残るかもしれない。
 けれど――それでもいつか、二人で笑って話が出来る時が来るかもしれない。
 その可能性が、僅かでもあるなら。

「……っ。できない……!」

 私は包丁を持った右手を力なく下ろした。
 泣きたくなんかないのに、涙があふれて止まらない。
 殺したくて殺したくて仕方がないのに。

 ――どんな親でも、生きていてほしい。

 そんな思いが私の右手の邪魔をする。
 どうして?
 どうして殺させてくれないの?
 噛みちぎってやりたいくらい憎いから歯を食いしばるんでしょう?
 ぶん殴ってやりたいくらい嫌いだから拳を握るんでしょう?
 それなのにどうして、この足は、この手は、ちっとも動こうとしないの?
 ……いや、答えは出ている。私はちゃんと気付いている。ずっと目を背けているだけで。

(私が成人するとき、隣で一緒に写真を撮ってくれる?)
(結婚するとき、私のウェディングドレス姿を見て泣いてくれる?)

 私はどこかでハッピーエンドを願っている。
 その可能性が1パーセントでも存在するなら――と祈ってしまうから、私は金縛りに遭う。
 勝ち目があるかわからない賭けなのに、それでもベットを続けてしまう。いつになったら答えは出るのだろうか。

「良かったよ、お姉ちゃん。殺さなくて、良かったんだよ」

 へたり込んだ私のうしろで、妹――夏が私と同じように泣いていた。

「うん……ごめん……」
「ううん……ううん……」

 私は何を謝っているんだろう。何について謝っているんだろう。

 殺せなかったこと?
 それとも、殺そうとしたこと?

 分からない。私にはもう分からない。
 そもそも、この計画はそこで泣いている一番上の妹と二人で立てたもの。私とそれ以外の子供たちへの対応の差があまりにも酷いから、と彼女から持ち掛けて来たのだ。
 それなのにどうして彼女は「殺さなくて良かった」なんて言ったの?
 全ての責任を私に押し付ける気だったの?
 夏はそんなことをする人じゃない――頭の中でそう理解していても、私は疑うことを止められない。
 分からない。夏の考えることが全く分からない。私には人の善意と偽善の区別がつけられない。
 ――だから寮母に嫌われるんだ。
 ――だから周りは私を好きになってくれないんだ。

 ――だから私はきっとまた、殺人計画を立てるんだ。

◆ ◆

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作者名:めいろ | 作成日時:2019年12月16日 22時

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