第2章-3 ページ13
(でも一緒にいても、『的』が多くなるだけで死ににくくなるわけじゃない。だから私からはおいでなんて言えない)
(それに……私はこの子を抱えて走らないといけないかもしれない)
(……どうしよう)
実際は30秒ほどだっただろうが――体感時間では3時間ほどの時が過ぎて、そして。
「……」
幼女は開きかけていた口を固く閉ざし、黙って走り去っていった。
「……」
私も口が開きかけていたことに気づき、閉じる。少女が出て行った方向をぼんやりと見つめた。
(……小さい身体で、どこまで生き残れるだろう。ごめん……。大丈夫なんて言う保証はないけど、それでも「一緒においで」と言うべきだったかな)
――と、止まらない後悔の波に押しつぶされそうになっていると、今度は右の扉が勢いよく開いた。
思いっきり吹っ飛ばされ、反対側の扉にぶつかる。
「うおっ」
と、男性の声が聞こえて、痛む左肩を押さえながらそちらを見た。大人の男2人が両脇から女の人を抱えている。抱えられている女性はダメージジーンズの穴が開いたところから血を流していて、出てきた扉の向こう側は、男の人に阻まれて良く見えない。
「すまん。あーびっくりした、けがは?」
と、私に扉をぶつけてきた奇抜な髪色の男性が言った。黄緑色の髪。もう一人も赤っぽい髪でとてもじゃないけど普段なら目も合わせないようにする人種だ。うわあ、初めて見た。大学生とかかな……?
……じゃなくて。
「え、うん、大丈夫、です」
私は両手を広げて無傷であることをアピールした。男性二人は頷き合うと、赤髪の人は中に戻っていった。
「よかった。あいつらは仲間が足止めしてるが……もうここにはいないほうがいい」
「あの……その人、大丈夫ですか?」
「ああ。ガラスで切ったんだ。ただ、この家電気も通ってなければ水も出なくてさ!……どうした?そっちに誰かいた?」
「何でもない」
はっとして私は首を振った。
幼女が走り去ったほうをまだ気にしていたらしい。
私は女性の怪我の具合をちらりと見て、開いたままのドアに滑り込んだ。
「おい!」
という男性の声が背中から聞こえるが、無視して洗面所を探す。
この官舎は小学生の時に友達が住んでいたから、間取りはよく覚えていた。
すぐに脱衣所を発見し、引き出しの扉をどんどん開けていく。電気代や水道代を払っていない割には物は丁寧に仕舞われており、タオルもしっかり畳まれていた。適当に何枚か取る。
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作者名:めいろ | 作成日時:2019年12月16日 22時