第2章-7 ページ17
固まったまま必死に念を送ると、その子供は私から目を離してのそりと起き上がり、またふらふら歩き回り始めた。
ほっとしたのもつかの間。
「!」
今度は――ヨーヨーを避けてスタスタ歩いていた奴が2人、私の方を見ていた。
オレンジと青の色違いのツナギを着た、私と同じくらいの年の女の子と男の子。ヨーヨーのイベントの主催側?
てっきり『奴ら』には視力がないと思っていたけど、ヨーヨーを器用に避けて歩いている。
そいつらは『静かに』とでも言うように口に人差し指を当てながら、にやにやと笑いつつ、私のほうに一歩一歩、近づいてくる。
――近づいてくる。
「えっ!?」
あ。
声、出しちゃった。
後悔先に立たず。
その瞬間、凄まじい雄叫びが森に響き渡った。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「ひっ」
奴らが声のする方――つまり私を見た。
100以上の瞳が私を凝視する。
ひゅっ、と再度喉が鳴った。
固まって動かない私を見て、ツナギの二人組が眉をひそめて走り出した――その瞬間に私も金縛りが解け、一目散に駆け出した。
全力疾走。
陸上の大会ぶりの――いやそれ以上の、文字通り命を懸けた爆走。
(走れ!)
(走れ私!)
こうなってくると手に持つ金属バットが邪魔だが、捨てるわけにもいかない。それに、うしろからは、じゃらじゃらじゃら――と。
砂利を蹴る音がする。
うしろを確認したい。
けど、そんなことできない。
何かに気を取られて転べば――それは則ち死!
どこにいたのか、森の中からうじゃうじゃ奴らが出てくる。
私の足音を聞きつけてやってきている。
「もう……やだ……っ!」
逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて、逃げて。
走って、走って、走って、走って、走って、走って、走って、走って、走って、走って、走って、走って、走って。
気づけば最奥のスポセン前。
玄関が開いていた。
隙間からするりと中に入り、扉を閉め、鍵も閉めようとする。
学校と同じタイプ。扉の側面にあるバーを下げれば鍵が閉まる。
でも――手が震えて、上手く動かせない。
遠くにはツナギの2人と、そのまた奥に奴らが近づいてきているのが見える。
「ああもう……!」
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作者名:めいろ | 作成日時:2019年12月16日 22時