【天王()】表裏一体な毎日【短編集】

第一次まとも戦争�� ページ9

それを言ったらおしまいだぞ、と。
　だが、腕の痛みには替えられない。

「…めいろさんが一番まともです！」

　涙目できゅうりきんぐは叫ぶ。「よく出来ました」とめいろは彼女の頭を撫でた。

「早急に大量の水で洗い流して、洗面所にヒルドイドが置いてあるから塗りなさいな。跡形もなく治るよ」

　そう言って横に退けるめいろ。
　途端、勢い良く駈けていくきゅうりきんぐ。こちらを見向きもしない。

　じのは彼女が扉の向こうに消えるのを見送って、立ち上がった。
　スーツの内側に手を入れながら。

「まともな奴は人に薬品投げないんだよ。知ってる？」

　そう言うや否や、めいろに向かってナイフを振り投げる。小さなナイフは目にも止まらぬ速さで飛んでいき、まっすぐめいろに刺さーー

「どわ！危な！」

　ーーらない。背の高いパーテーションの向こう側に逃げ込むめいろ。

「…チッ」

「おーこわ。まともな奴は屋内で刃物振り回して遊びませんよー！」

「めいろさんが薬品ふっかけてくるからですー！正当防衛ですー！」

　あははは、とパーテーションの向こうでお腹を抱えて笑うめいろ。影だけ見える彼女は、パーテーションの向こうでがさごそとまた何かの薬品を取り出した。じのは再び舌打ちをする。

「さて、お次は君だね、じのさん」

「違うね、めいろさんが私に服従する番だ」





　いつもより空が近く感じる高層ビルの最上階のひとつ下、初めて足を踏み入れた者が百人規模の会社かと見紛うほどに広い一室。
　普段はデスクと椅子が並び、そして好き勝手にPCやお菓子やらが散乱しているーーはずだが、今は大掃除でもしているのか、それとも大地震でも起きたのか。
　椅子やデスク、パーテーションはなぎ倒され、あちこちナイフが突き刺さっている。机の上のものはPCも何もかも床に落ち、プリント類は踏まれてぐしゃぐしゃ。全開の窓から入ってくる風に吹かれて舞い踊っている。
　そしてーー部屋を縦横無尽に掛け回る影が、二つ。

「私が一番まとも！まともって言う奴はまともじゃないが、そんな理屈をも超えるまともは私だ！」

「ちょっと何言ってるか分からないなあ！」

「少なくとも薬品を投げつけるめいろさんよりはまとも！」

「君もナイフ投げつけまくってるよね！…イッタア！」

　じのが投げたナイフが、めいろの頬を掠める。

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