【天王()】表裏一体な毎日【短編集】

ここで必ず得るだろう ページ32

「え？変？誰が？」

　兄貴の隣で猫犬が目を見開く。

「ねこさんやで」

　兄貴は猫犬の方を見もせずに、持っていた本を開いた。クィディッチのルールブックらしい。

「ちょっと良く分からないな〜！」
「あーーすまんかったからそのチョコでべったべたな手でこっち来やんといて」
「えへへー」

　再びソファに座ってチョコを食べるのを再開する猫犬。
　しばらくして、寝室と談話室を繋ぐ扉が開き、獣道が戻ってきた。

「ごめん猫犬、カエルチョコはなかったから百味ビーンズ持ってきたよ…あれ？つかさんと兄貴。おかえり」
「ただいまやで」
「ただいま」
「けもさんありがとー！いやーけもさん…髪わしゃわしゃ〜ってしたい…」
「やめて」

　その両手のチョコをどうにかして、と眉をひそめる獣道。

「お菓子持ってきただけじゃん」
「違うよ〜そういうことじゃなくて！何かこう…色んな感情が…っ！ね、軍曹！」
「ふぁ？」

　あーん、と大きく口を開けてチョコをかじろうとしていた軍曹は、チョコを口から離してにやりと笑った。

「まぁ、あれやな。けもさん変わったからな」
「そうかな」
「うん」

　大きく頷く軍曹と猫犬。兄貴とつかさんも嬉しそうに小さく頷いた。

「あー、多分それは」

　頭をぽりぽりとかき、4人から目をそらす獣道。だが時計を見た途端、目を大きく見開いた。

「あ！やば…！」
「どうしたの？」

　つかが首を傾げる。

「絵の〆切が…あと5分」
「それはやばいな〜！あはははははは」
「ちょっと行ってくる！猫犬あとでシメるから」
「何で？！」
「いってらやでー」
「猫犬は捕まえとくから安心してな」
「行ってらっしゃい」

　それぞれに見送られ、談話室の扉に手をかける獣道。
　と、すぐには出ていかず、くるりと振り向いた。青と黄色のグラデーションの髪がふわりと浮かぶ。
　頭にはてなを浮かべる4人。
　獣道はにこりと笑い、

「ありがとう」

　と言ってローブを翻し、今度こそ談話室から出ていった。
　4人はひらひら振っていた手を降ろすと、満足そうに笑って顔を合わせた。
「ありがとう」の理由は、彼らには伝わったらしい。


END

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