【天王()】表裏一体な毎日【短編集】

暇を持て余した軍曹の遊び�� ページ2

「栗さん！やっほー！」

　猫犬が元気に両手を振るのをちらりと見て、彼女は二度寝できないことを悟る。

「で、3人で何の用」

　語尾も上げずにそう尋ねる栗花落。いつものことだ。怒っているわけではない。
　軍曹は「えっとねー」と(猫犬が逃げないようにどうやって説明しようかな)と一瞬考え、あれ、待てよ、と思考が停止する。



「…3人？」



　え、と振り返る。
　猫犬のうしろに、誰かいる。
　気づかなかった。

「ばれたか。さすが栗さんや」

　足音ひとつ立てず。
　氷結を片手に。

「俺抜きで面白いことせえへんといて」

　第六天王()、須賀兄貴が姿を現した。



「とりあえず入れよ」

　栗花落にそう言われ、中に案内される天王()3人。家の中は白を基調とした家具で整頓されており、音は4人分の足音だけ。
　他の5人は別の基地にいるのか、と聞こうと軍曹が口を開くと、それを防ぐかのように栗花落がリビングの扉を開けた。

　その向こうにはこれまた白い椅子に一人、黄緑色の女性。
　チョコをくわえて音もなく座っている。
　彼女はそのまま音もなく、ドアが開いたほうを向いた。

「ふぁ」

　にわとりの着ぐるみを頭まですっぽりかぶった茶髪の女性は、第三裏天王()、めいろ。
　彼女はカメレオンのようにチョコを口の中に入れる。
　そしてにっこり笑って机の上の日本酒を手に取った。

「あらあら、表の皆さまが3人も。何か事件でもあったの？」

「いや、今日はーー」

「めいろさーーーん！」

　軍曹の言葉を遮るように、耳をつんざくうるさい声が後ろから聞こえる。
　声の主は言わずもがな、天王()一のムードメーカー兼生きたスピーカー、第二天王()猫犬。
　猫犬はぱたぱたと彼女の元に駆けていく。

「めいろさんだめいろさんだ！わあい！珍しいねこの時間にいるの！てかそれ何？チョコ？私も欲しい！」

「はいはい」

　そう言ってめいろは猫犬の口にチョコを突っ込む。彼女の隣に座り、もぐもぐと満足そうに口を動かす猫犬。
　猫犬が静かになったのを確認し、めいろは再度振り返った。

「君たちも好きなところに座りなよ…………あ！」

「？」

　目をキラキラと輝かせるめいろ。もしやまた誰かついてきているのか、と軍曹は焦って振り返った。
　だが、そこにいるのはちょっと困った顔の兄貴だけ。今度は本当に誰も隠れていない。…ように見える。

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