106.彼の気持ち1 ページ33
拓海side
俺達は上手くいっている。
単身赴任の間も、帰ってきてからも
Aは変わることなくそばにいてくれる。
ずっとずっと、そう信じていた。
A「……少し…考えさせて。」
左手の薬指からさっきはめたばかりの指輪を外して
そっと小箱に戻したA。
Aからそんな言葉を返されるとは思ってもみなかったし
即答で「イエス」をもらえるもんだと構えていた俺の落胆ぶりはすごかった。
甘い、幸せな空気のまま肌を合わせて朝を迎えたいと思っていたけど
プロポーズの返事同様、それも断られてしまい
真夜中だからと引き止めても「帰る」と言ってきかないAを大通りまで一緒に出てタクシーに乗せて見送った。
A「ありがと拓海。ごめんね。」
拓海「ん、いいよ。また…連絡するわ。」
A「………うん。」
タクシーに乗ったAが申し訳なさそうに微笑む顔が消えなくて
しばらく大通りで一人立ちつくした。
ふっ……と思い出したのは
Aが今のバイトを決めた時のことだった。
.
A「新しいバイトが決まったの。」
そう聞いたのは東京に戻ってくる直前のことで。
ハウスキーパーなんてバイト、どうやって見つけてきたんだ？って素直な疑問をぶつけたら
料理学校の先生からの紹介だと教えてくれて、とりあえず安心したんだっけ。
でも……
どう考えてもあのバイトを始めてから
Aが少し変わったような気がして仕方ない。
前は呼ばなくても俺の家で帰りを待っていてくれて
料理だって、リクエストしなくても作ってくれていたのに
最近は俺が不規則なせいか、料理もたまにしかしてくれないし
家で会うのも、約束をして「わざわざ来てもらってる」感じだった。
確かに帰ってきてから引き継ぎ関係で出張が立てこんで
ゆっくり会うこともままならない状態だった。
二人で過ごす時間を作ってやれなくて悪いなと心の中にずっとあった気持ちを
少しずつでも伝えて、時間を埋めていければいいかとそう思っていたけれど…。
まさかAに
他の男の影があるなんて、思いもしなかった。
.
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作者名：みおり
| 作成日時：2014年7月22日 17時
