105.射抜く光 ページ32
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A「…………」
拓海「結婚してください。」
拓海の指先が指輪を摘んで、私の左手の薬指にそっとはめていく。
言葉が出ないまま、ピッタリなそれと拓海の顔を何度も見つめていたら
目の前の顔が噴き出しそうな笑いを堪えていた。
拓海「……A、金魚みたいに口ぱくぱくしてる…(笑)」
A「………///」
ずっと左手を撫でながらヒーヒー笑ってた拓海が
ふっと、真面目な顔つきになって私を抱き寄せた。
拓海「A、今のバイト始めてからなかなか俺んとこ来てくれなくなったじゃん？」
A「そ、そうかな……」
拓海「そうだよ？飯も頼まないと作ってくれなくなったし…。」
A「だって拓海も出張多いじゃない。」
拓海「……そうだけどさ。もっと一緒にいるためにこの前一緒に住もうって言ったんだけど、そんならもう結婚したほうがいいかなって考えてさ。」
A「……………」
拓海「記念日にプロポーズしてみました。」
A「拓海……」
緩んだ腕から離された身体がそっと押し倒される。
見下ろしてくる拓海がそのまま近づいて
軽く触れた唇を何度も何度も啄むように重ねる。
拓海とキスをしているのに
目を閉じて脳裏に浮かぶのは二宮さんの切なそうな顔。
名残惜しそうに離れていったあの時の顔が消えない。
A「…………待っ…て……っ！」
顔を背けて唇を離すと
拓海はその言葉を無視してスカートの裾を捲くり上げてきた。
手を咄嗟に掴んで制止したら
なんで？って切なそうな表情を浮かべて私を見つめてきた拓海。
その目に
チクン、と胸が傷んだ。
A「今日は、その……」
言い澱んでいると
あぁ…そうか、と身体を抱き起こしてくれて
そんな時にごめん、って謝ってくれた。
私はただ黙って首を横に振るだけ。
嘘を見抜かれないように、下を向いているだけ。
膝に置いた左手の指輪が
嘘つきな自分を射抜くみたいに光っていた。
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作者名：みおり
| 作成日時：2014年7月22日 17時
