86.浮かぶ顔 ページ13
.
A「拓海…」
拓海「午前様、だな。どこ行ってたの？」
A「…どうしたの？今日はバイトに行くって言ってたけど？」
拓海「うん、知ってる。けどこんなに遅いもん？何回も携帯鳴らしたんだけどな。」
A「ごめんね、携帯気づかなかった…」
びっくりして動けずにいた私の前に歩いてきた拓海が立ち止まって
黙って私の右手を自分の手のひらで包み込んで見下ろしてきた。
A「……なに？」
拓海「ん？別に…。」
さっき二宮さんに触られていた右手。
手の甲を撫でるように何度もさすってくる拓海。
……もしかして、さっきの…見てたのかな。
そう感じるくらい、拓海の手は離れないし
拓海の目線はずっと手ばかりを見ていた。
A「ね、どうしたの、急に。」
拓海「ん？会いたくなったから会いにきただけたけど。」
A「…………」
久しぶりに聞いた甘い言葉に
なんだか心がむずむずして恥ずかしさでいっぱいになって
顔が真っ赤になってくのが自分でもわかった。
拓海「な、A。」
A「ん？」
拓海「一緒に住まない？」
A「え……どうしたの、急に。」
拓海「急じゃないよ。こっちに戻ってきてからずっと考えてた。」
A「………そうなの？…」
拓海「考えといて。またゆっくり話そう。」
A「う、うん…。」
微笑む拓海の顔が近づいてきてちゅ、っと重なる唇。
間近で「じゃ、またね。」って言ったあともう一度触れる。
タクシー拾って帰るわ、って言った拓海とマンション前で別れて
大通りに向かって歩いていく背中が見えなくなるまで見送った。
自分の家に着くまでの間、拓海の言葉を思い出してみる。
一緒に住むってことは結婚を見据えてのことなんだろうか。
単に同棲がしたいだけならどうしよう…。
実家暮らしに戻ったとき
私がもう一度家を出るときはお嫁さんになるときね、って笑ってくれた母の顔が浮かぶ。
A「……いろいろ考えるの明日にしよ。」
今日は疲れた。
めちゃくちゃ疲れた。
二宮さんのことも、拓海のことも
数時間の間に起こった出来事としては中身が濃すぎる。
家の鍵を開けるときに見た自分の右手。
ふわっと浮かんだのは
二宮さんがちゅ、ってしたときの顔。
可愛らしいくせに、色っぽくて…
思い出しただけでも心拍数が上がる。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1732人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：みおり
| 作成日時：2014年7月22日 17時
