誘い ページ4
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―私と共に来ないかい?
そう云い私に手を差し伸べた目の前の友は、昔とは見違えるほどに変わっていた。
今の私にははっきりとその姿を捉える事は出来ないが、それだけは佳く判った。
「私に組織を裏切れと云う事ですか?」
「そう云う事になるね」
少しの沈黙の後、私が出した答えは否だった。
「遠慮します。私は組織と共に生きることにしました。これが私の下した結論で、答えです」
何度も組織に盾突いたこんな私を見捨てることなく、こうして命を繋ぎ止めてくれた組織に、森さんに、私は恩を返さなくてはならない。
それに一葉だけに背負わせるわけにはいかない。
私には彼女の行く末を見届ける義務がある。
今度は私の意思で、此処にいることに決めた。
私と云う一人の人間として決めたこと。
「今の君に何ができるんだい?」
「・・・・」
「視力の大半を無くし、碌に動けないその身体で以前と同じように仕事を熟せるとでも思っているのなら、其れは愚かな考えだ」
「・・・」
「私と共においで。私なら君を守ってやれる」
その言葉に私は静かに首を振った。
「今度こそ本当に死ぬかもしれないよ」
「そんなことは百も承知です。それでも私は此処にいる。それに、死に瀕する事態には慣れていますしね」
貴方だってよく知っている事でしょう?
そう問いかければ苦い顔をする目の前の彼は、小さく息を付き呆れたように言った。
「本当に君は、昔から頑固だね」
「これが私ですから」
昔とは違う血と硝煙の匂いの交じりがない、優しい香りと温もりに包まれる。
耳元でボソリと呟かれたその言葉に思わず口角が上がる。
頑固なのは貴方もでしょう。
遠くからバタバタと騒がしい足音が近づいてくると共に「それじゃあ、また逢いに来るよ」とそう云い残して走り去る。
暫くすると遠くで「太宰ィィイイ!手前待ちやがれ!!」と叫ぶ中原の声が聞こえた。
「彼も懲りないですね」
「お疲れさま、一葉」
「驚きましたよ、“監視の足止めをしておいて”だなんて」
「ふふ、御免なさい。でもこうでもしないとゆっくり話せないですからね」
「はあ」
「まあ、中原が来ていたことは想定外だったけれど。お陰で騒がしくなってしまったしね」
「・・・それも態となんじゃ」
「さあ、どうでしょうね」
私は諦めないよ
太宰の歩いて行った先を一度振り返り、私は逆の道へ行く。
日向を行く彼とは違い、日陰の道を進む私たちの背からは相変わらず騒がしい音が響いていた。
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汐里(プロフ) - Re-VI@TANさん» コメントありがとうございます!すいません、完全にミスですね。恥ずかしい。後程修正致します!作品を気に入って頂けて光栄です!一度陥ると中々抜け出せないのが難儀ですよね…応援有難う御座います!頑張ります! (2018年4月8日 9時) (レス) id: 77540e590f (このIDを非表示/違反報告)
Re-VI@TAN(プロフ) - ブランクではなくスランプ、では?私もよくスランプに陥りますねwでもそれは真剣に考えて作ってるからそこだと思います!先日この作品を見つけ、とても面白くて1日の半分ほどかけて読み続けてました。これからも頑張ってください!長々と失礼しましたorz (2018年4月8日 1時) (レス) id: 1436669b3d (このIDを非表示/違反報告)
汐里(プロフ) - 八重桜 蜂さん» 八重桜様、コメントありがとうございます!そう言って頂けて凄く嬉しいです!またぼちぼち更新していくので、楽しんで頂ければと思います。それでは失礼いたします! (2018年2月27日 23時) (レス) id: 77540e590f (このIDを非表示/違反報告)
八重桜 蜂(プロフ) - 続編とても楽しみにしてましたー!!1のときからずっと見てて、素晴らしい作品だと感心してました()応援してます!!! (2018年2月27日 23時) (レス) id: de911b9147 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:汐里 | 作成日時:2018年2月27日 22時