樋口家長女の受難【文スト】

組合の団長との邂逅 ページ17

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「やあ、ミス・ヒグチ。目覚めの気分はいかがかな？」

「最悪ですね」


目が覚めたら組合の団長がいるとか聞いてない。

そして、寝かされているベッドの寝心地が善いのが腹立つ。

お陰で日頃の疲れも吹っ飛んだよ。


「その割には熟睡していたが」


「貴方方の所為で、日々忙しいもので」


「それは失礼」


優雅に足を組み寛ぐこの男、フィツジェラルド。


「それで、組合の団長様が一体何の御用で？」


「ああ、それについては人虎が目覚めてからにしよう。それまで私とチェスを楽しまないか？」


“君の頭脳にはとても興味がある”

そう云い、背後のテーブルに置かれたチェス盤を指さす。

準備万端かよ。




何が嬉しくて寝起き早々、敵の団長のご機嫌取りをせねばならないのか。

文句は山のようにあるが、直接こうして話す機会も無いので貴重な機会だと割り切った。

盤を挟み、意外にも世間話を始めた男の言葉に相槌を打ち、時に意見を出すと云う普通の会話が成立する。


何だろう、腑に落ちないこの感じ。

いつの間にやら妻がどうの、娘がどうのと云う話になり、この男の家族構成まで知る羽目になった。


「ほう、君は実に面白い戦法をとる」


「そうでしょうか」


「オルコット君とは少々趣向の違う作戦を考えるタイプだな」


盤上に並んだ駒を見、何処か感心したように呟く。

オルコット。

確か、組合の作戦参謀だったかな。


「そちらの作戦参謀は物語のような作戦をお考えになるとか。実に興味深いですね」


「彼女の情報は一切外部に漏らさないよう徹底しているんだが。何処で知ったのか気になるな」




その言葉に挑発するように





「鼠は何処にでもいるものですよ」




そう云った。

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