Side 大橋和也 あの日 4 ページ37
･
｢大丈夫？Aちゃん｣
落ち着かせた声色でそう声をかける。
自然と彼女の耳元に口を寄せる形となってたため、ほぼ囁くほどの声量になっていた。
しかも気づけば、勝手に名前まで呼んでしまっとった。
いつもの俺なら、もっと騒いでんのやろな、なんて考えて。
A｢っ大丈夫です！！｣
彼女も、名前呼びに気づいたらしく、酷く驚いた様子を見せる。
｢名前、ごめんな。謙社が呼んでたから。苗字知らんねん。…これからもAちゃんって呼んでええ？｣
ずるい事、してんなぁ、俺。
そんなん言われて、嫌や言える女の子中々おらへんやろ…。
Aちゃんは、俺の腕の中で小さく何度も頷いてくれた。
なんで俺、出会ったばっかのこの子をこんな抱きしめてるんやろ。
すぐ離せばええんに、それすら出来んくて。
あんな大人っぽいって思おたAちゃんのギャップにも、やられてもうてる。
なんて、少し冷静になると、俺だけやない、触れ合ってるとこからAちゃんの心臓の音まで聞こえるような気がして。
俺に、ドキドキしてくれてんのや――。
なら、もっと、大人っぽく――。
｢…ふふ、謙社と並んでる時はあんな大人やなって思ったんに、思ったよりちっちゃくて、ドジ？｣
俺は、少し大人びた優しい声色でそう言った。
Aちゃんの心臓の音はまだ俺に聞こえるほどやった。
｢抱きしめて、こーんなに、ドキドキしてるん初めてなんやけど｣
それは、賭けやったと思う。
実際、俺の心臓の音が逆に俺ん耳に入っとるだけかもしれん。
Aちゃんにとっては、なんてことないことやったんかもしれん。
そんな考えは持たないようにして、
出来るだけ年上の大人っぽさを演出する――。
A｢っ！！｣
俺の言葉に、彼女は息を飲んだ。
A｢や、あの、これは、その、違くて！｣
彼女の声のボリュームが上がり。
これは、流石に謙杜に気づかれてまうな、
なんてどこか冷静に思った。
長尾｢なに抱かれてんねん！｣
そんな声が聞こえたかと思えば、ぐん、とあっという間にAちゃんが俺の腕から離れていく。
酷い勢いで引かれた彼女のその腕が痛まないことを願う。
……“なに抱いてんねん”、やないんやな、謙杜。
最初っから、Aちゃんが悪いんやって疑っとる言い方やんな？それ。
とっさに出たんやったら、それが、本心なんやろ？
やったら、俺、ほんまに引かれへんよ？
謙杜――。
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作者名：SOLa | 作成日時：2023年3月6日 23時
