Don't let go, can't let go． (ページ19)

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謙｢どこにAの意思があるん…？

俺は、Aが他の男と手ぇ繋いでんの見るの、嫌や。｣

謙杜は、言葉は少し強くなっていくが、その顔はどこか苦しそうで、消えてしまいそうで、繋がれたその手に、少し、力を込めた。
捕まえておかないと、届かないところに行ってしまいそうで、そんなことないと分かっているのに、今はこの人の手を離せない、と思った。

謙杜は、は、と乾いた笑いを零す。

謙｢なぁ…Aが、手ぇ繋ぎたいて思う人は、誰なん……？｣

その声が、すぐにでも泣き出してしまいそうなほど震えていて。でも瞳はしっかりと私を捉えていて。

『………今は…謙杜の手を離せないよ』

私はそんな言葉が口をついてしまって。
そう言っては良くないってことは理解していたのにも関わらず、そう言わずには居られなかった。
謙杜も大切なんだよ、の気持ちを込めているのに、“今は”とつけた自分の身勝手さに嫌気がさす。

謙｢…もうええ、帰ろ｣

謙杜は、私の手をぱっと離し、足早に部屋を後にする。

ぱたん、と閉じたそのドアが、謙杜の心の扉のようで、どこか寂しさを覚える。
自分が悪いことは分かっているのに、寂しがるだなんてわがまま、許されるはずない。

『(謙杜が想ってくれてる私って、どんななんだろう…)』

それさえ分かれば、そんな私を私は演じてみせるのに、と考える私。
そこではっと気づく。

『(…私、謙杜の気持ちが離れるのが、悲しいんだ…)』

今まで、謙杜のことを恋愛対象として見てこなかった私は、気づけばいつの間にかそんな風に彼を見ていたことを思い知る。
でも、謙杜のことを恋愛対象として好きか、と問われるといまいちよく分からない。
それなのに、謙杜の気持ちは自分に向いていて欲しいだなんて、ひどいわがままだ。

『(こんな思い、表に出さないようにしなきゃ…)』

私はそんな気持ちを奥底にしまい込むように、大きく深呼吸をした。

『よし…』

私は、一瞬眠る大橋くんに視線を寄せ、部屋を出た。