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駿｢…Aさん？｣
道枝くんに名前を呼ばれて、やっと体の硬直が取れて。
『っ！ごめん！！』
顔を隠していた両手はいつの間にか彼の胸に当てていて、それを押すようにして私が後ろへ下がり彼から離れる。
『(私は何回こけそうになれば気が済むの…！！)』
なんて自分を叱咤する。しているのに、心臓は高鳴るばかりで。
謝罪を、と思い、自身の顔が赤くなっているであろうことなど気にかけることなく彼の顔をぱっと見上げた。
『ほんと、ごめ』
ごめん、と口にしようとして、言葉が止まる。
彼の長い指が彼自身の口元へ伸び、しーっと私を制するような仕草をして、微笑んでいたからだ。
駿｢…ちゃうやろ？｣
と優しく言われ、思い出す。そうだ、ごめんじゃないんだ。
彼の指が自身の口元から離れていく。
『…ありがとう』
私はそう言った。
彼が望んだ笑顔は作れなかったと思うけれど。
笑ってへんやん、なんてつっこみながら彼自身が笑ってくれたから、私もつられて笑ってしまった。
ガチャ、というドアの開く音が聞こえて、3人が着いたことを察する。
大｢はっすん〜？ほら、おうちやで〜？｣
和｢んん〜｣
謙｢やっぱりだめや…｣
そんな声が聞こえてきて、一気に騒がしくなるね、とふたりで顔を見合わせて少し笑った。
道枝くんは3人を出迎えに玄関へと歩き出す。私もその後ろを着いていった。
〈だって――
大橋くんが連絡待ってた子ってAさんなんやから。〉
彼本人の顔を見るとよぎる言葉。
駿｢ふたりともここまで任せてすいません。
ベッドでええですか？｣
と、道枝くんが大橋くんの前に背を向けてかがんだ。
大｢ごめんな、助かるわ。思ったより疲れてもーて｣
西畑くんがそう言うと、西畑くんと謙杜は道枝くんの背中に大橋くんをあずける。
駿｢大橋くん？立ち上がりますよー？｣
と言って、返事は無いまま、彼は立ち上がった。
そして大橋くんをおんぶしたまま、彼は寝室へと歩を進める。
謙杜はその隙に寝室のドアを開けて待っていた。
私は、さっき道枝くんが汲んだ水の入ったコップを持ってついて行った。
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作者名：SOLa | 作成日時：2023年3月6日 23時
