11.あまりにも ページ11
その日は、席で一日中ボーっとしていたと思う。
櫻井さんにあの事を打ち明けられてから、その事ばかり考えてしまって。
こんなちょっとした事で、自分がここまで動揺するとも思ってなくて、そんな自分に戸惑っている。
咲「美緒...？大丈夫？」
「 ... 」
咲「おーい？生きてますかー？」
私は咲の呼びかけで我に返った。
「ごめん！なんかあった？」
咲は呆れた顔で言った。
咲「んもう！美緒は顔に出過ぎ！私は別にいいから仕事のあと話聞くけど、仕事中は集中してもらわないと困るからねっ！」
「ごめん、ありがとう...」
咲「ったく、今二宮さんから内線入って、スタジオフロアまでこれ持ってきてって！」
と、咲から書類が入った茶封筒を渡された。
うん、と首だけで頷いて、何も考えずにカウンターの横にあるエレベーターに乗ってスタジオフロアのボタンを押した。
まもなくエレベーターのドアが閉まるだろうという時に、ドアがガンッと音を立てて隙間を開けて止まった。
櫻「っと！間に合った〜」
「っ！櫻井さん...」
櫻「あ！美緒さん、昼間はありがとうね」
「いえ...」
櫻井さんはいつもと変わらない対応なのに、
私だけ妙に緊張していた。
櫻「あれ？それ二宮くんに届けるの？」
「へ？」
目線の先をたどると、櫻井さんは私が持っていた茶封筒を見つめていた。
「あ、そうです。なんで分かったんですか？」
櫻「いや、そこに『二宮様』ってでっかく書いてあったから(笑)」
なんだ、そうか。
気が動転して何も見ていなかった。
櫻「なんか、美緒さんと二宮くんって仲いいよね」
「えっ、いやそんなことないです」
櫻「でもー、社内でもたまーに聞くよ？2人が付き合ってるんじゃないかって」
！？
「え！？うそ... ぜんっぜん、そんなことないですから... 嘘ですからそれ！」
慌てて否定する私を見て、
櫻井さんは笑った。
櫻「そんなにかたくなに否定しなくても！」
「いや、でも本当に違うので...」
櫻「そこまで言うなら本当に付き合ってないんだね、よかった！」
エレベーターが開いた時のチーンという音で少しかき消されてしまったけど、確かに言ってた。
よかった、って。
櫻井さんはエレベーターが開くと、開ボタンを押したまま、どうぞ、と手を伸ばしてくれた。
あまりにも急な言葉に、私は固まった表情のまま、軽く会釈をしてエレベーターを降りた。
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作者名：しんみの | 作成日時：2018年1月3日 9時
