そばにいたひと (ページ1)

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1.いつもの受付ページ1

「おはようございます」

今日もいつもと同じ席から、いつもと同じ笑顔を振りまく。

編集部の佐々木さんはいつも早めに来て、ロビーでサンドイッチを食べてからエレベーターに乗る。

メイクの春野さん、衣装・スタイリストの綾瀬さんと河野さんの3人は、毎日仲良く駅前のカフェのコーヒー片手に、ぺちゃくちゃと話しながら遅めに入ってくる。

と、まあこんな感じで、社員の顔と名前と１日の大体の動きはほぼ把握している。

咲「美緒、おはよー」

「おはよう咲」

この子は同僚の咲(さき)。

私と同じタイミングで入社して、それから一緒に働いている。

だからきっと咲も同じような事を把握しているはずだ。

別に特技じゃないけど、自然と毎日飛び込んでくる景色は同じで、モノクロみたいに単純なために覚えてしまった。

咲「今日も１日、頑張ろっかぁーっ！」

「おっきいあくび(笑)」

私の働く場所は、大手編集社の編集部。

ではなく受付。

私は、この会社が出す「berry」というファッション雑誌が大好きで、ここに就職した。

でも私が配属されたのは受付で。
こんな日々を、なんの目的もなく送っている。

そんな私のモノクロの日々に、唯一の彩りを与えてくれる人。

「あっ、来た」

それは

櫻「おはよう、美緒さん」

「おっおはようございます！！！」

編集部編集長の櫻井さん。

慶応卒の超エリートで、30代前半にして早くもこの会社の出す雑誌の編集長にまで上り詰めた人。

おまけに超の付くほどのイケメン。

キレイな顔立ちにぴしっとキマったスーツ。
今日も素敵です、櫻井さん。

咲「なあーに、名前下で呼ばれちゃってさっ！」

「ちょっとやめてよっ、あれは編集部のAさんと私を区別するために、下で呼ばれてるだけだかるら！」

咲「ほぉーーん。でも、櫻井さんに下で呼ばれるなんてほんとにうらやましいよぉ。美緒みたいに惚れてなくても、いいなって思うもん！あ、別に取る気なんて無いからね？(笑)」

「分かってるよ(笑)」

誰が見てもかっこいい、、、

仕方ないよなぁ、、私のものじゃないんだし。

櫻井さんは私の憧れであり、想い人。

でもその存在は近いようで遠くで。

受付で受けた内密な連絡をスムーズにするためにもらった電話番号の付箋が、未だにパソコンの画面の端に貼ってある。

美緒さんって呼んでくれるその声を、毎朝楽しみにしていた。