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言われたのは突然だった。
蒸し暑い夏の日。
「バンとやりたい。」
「…なんて?」
「バンとバンドやることにした。」
その言葉に、私は目を輝かせた。
心臓が大きく音を鳴らしているのがわかる。
ドクン、と響く高揚にただでさえ赤い顔を更に紅潮させた。
「＿＿＿＿いいんじゃない。」
ふたりの始まりを一番近くで見守ったこの日、私はふたりを出来る限り支えてみせると決めた。
「A、僕たちのこと見ててくれる?」
『当たり前だよ。私はふたりの音楽のファンだから。』
「俺たちのファン1号、だな。」
『うん!』
ふたりで音楽をやると決めたその後でも、私をふたりの空間に立ち入らせてくれるんだ…と、柄にもなく舞い上がってしまった。
ふたりにとって " 特別 " であることが、少し誇らしかった。
私も、このふたりの一番最初のファンになれたことが凄く、…凄く嬉しかったんだ。
『…千斗?』
「誘っておいてその顔か?」
「…一緒にやりたいとか、一緒にいたいとか。
そう思った人は初めてなんだ。
だけど誰かと長く一緒にいたことがない。」
「どうして?」
「わからない。
皆怒り出すからさ、くだらないことで。」
『千斗にとってはそうでも、その人にとってはそうじゃないこともあるんだよ。』
「…バンとAのくだらないことって何。
怒らせないようにするよ、一応…気を遣って。」
千斗の言葉に私と万理は顔を見合わせた。
「…あのなあ」
千斗の表情は真剣で、何処か不安そうで。
上手く例えられないけど…まるで迷子の子供みたいな。
万理は千斗の頭をﾎﾟﾝ､と撫でつける。
私は千斗の手を取り、両手で包んだ。
少し驚いたように目を見開いて、千斗は私達を見つめていた。
「馬鹿、怒る時は怒るよ。
でも＿＿＿＿いなくなったりしないよ。」
『私も同じ。…千斗と万理の傍にいさせて。』
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作者名：緋真
| 作成日時：2023年8月19日 3時
