【HQ】導きの八咫烏

11 ページ11

.













.












「ツッキーはただ…A先輩が、心配なんです。
ツッキーは元々ジュニアで一緒にやってた頃からA先輩にはよく慕っていたので…」


「へえ、あの月島が…」


「勿論俺も先輩のことは大好きで、…休みの日が合えば必ず2人で先輩が出ていた試合を観に行ってました。」













月島を待つ山口は3年生2人と、坂ノ下商店の前で話していた。











「ツッキーは…お兄さんがバレーをやってたのもあるんですけど、偶然試合を観にいった時に先輩のプレーを見て、憧れて…それで同じジュニアチームに入ったんだって言ってました。」

「ツッキーにとって先輩は絶対の憧れで…本当に、大切な人なんです。
だから、今回も…」


「Aがバレーを辞めた理由、ってやつか。
武田先生も事情知ってるっぽかったしな。」


「はい。あの日…ツッキーは先輩がバレーから離れることを止めなかった。」














彼女は、中学の時ひとつの事件に巻き込まれた。


中2の頃＿＿当時Aに熱烈なスカウトを続けていた男性に一方的な愛執を向けられ、誘拐、そしておよそ半年程の期間軟禁生活を送った経験があるのだ。


男は言った。

お前の笑顔が好きなのだと。
バレーボールに負ける全てが愛おしいのだと。
コロコロと変わる表情は愛らしい。
どうしようもなく、愛してしまうのだと。

…柔らかな感情を持つ君が、美しいプレーをする君がいけないのだと。


半年経って男は捕まった。
が、解放された彼女は＿＿＿死んだ目をしていた。
感情を殺した。それ以来、Aは笑わなくなった。

それまでと笑い合っていた友人たちは、彼女と距離を置いた。
しかし、月島はそんな彼女にすら憧れ、憧憬の念を抱き、彼女と連絡を途絶えさせることはなかった。

山口も、そんなふたりを陰ながら見守っていた。
















「ツッキーは、A先輩がこれ以上傷つくことが何より怖いんだと思います。」













.

12→←10

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す