好き、嫌い、好き Ⅲ (ページ35)

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彩「勇人くん」

名前を呼ばれて、顔を上げる。
時間ピッタリに、彼女は現れた。

「アイスコーヒーでいい？」
彩「ううん、いらない」

彼女は、持っていた鞄を横の席に置き、俺に向き直った。
ピンクの唇が、微かにふるえていた。

「‥‥遅くなって、ごめん」

彼女は、小さく首を横に振った。
そしてやっぱり、あのまっすぐな瞳で俺の事を見る。

ずっと、ずっと

俺を信じてくれた目で。

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俺が深呼吸をして、話始めようとすると目の前の彼女が、口を開いた。

彩「私、嬉しかった。勇人くんが、あの本ずっと大切にしてくれてて。それが、お情けだったとしても。‥‥もしかしたら、私の事、忘れたいくらい嫌な記憶になってるかもしれないって、思ってたから」

力なく笑った彼女は、目を伏せた。

もし、この先の言葉がどんなにきつく厳しいものでも、

受け止めよう、そう思った。

彩「貴方に、変わっててほしいとまで思う自分がいた」

彩「そのままの勇人くんが好きだったのに、そんな貴方が変わっていたらどんなに幸せなことなんだろう、って。‥自分から、別れを告げたくせに忘れられなかったのは私の方で、昔の貴方が今ここにいなければ、きっと、私はまた貴方を好きになる事はなかった」

彩「変わってない貴方は、やっぱり素敵だった」

ふり絞った彼女の言葉が、重く、重く圧し掛かる。

彩「だから、もう何も言わないで。‥‥気持ちは、分かったから」

僅かな微笑みを浮かべた彼女は、鞄を持って席を立とうとする。

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違う、だめだ。

こうやって、逃げ続けて俺は全部後悔してるんだ。

「待って」

きっと、彼女の言うようにこの先の言葉を言う事は正解ではないかもしれない。

でも、この言葉は不正解ではない気がするから

「俺は、彩登美の気持ちに応えることは、できない。前の時みたいに」

「あの本を大切にしたことは、お情けなんかじゃない。俺を変えてくれたから。彩登美が、変わった俺を肯定してくれたから。きっと、今ここにいるんだと思う」

何度も、何度も

俺は君を傷付けてしまうけど

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「ありがとう」

その言葉に、瞳から涙を一粒だけ流した。

条件反射のように出たその一粒を、大事そうに拭った彼女は、笑顔だった。

彩「ありがとう。ずっと、応援するから」

さよなら、と零した彼女は

その哀しみだけそっとこの場に残していなくなってしまった。

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