好き、嫌い、好き Ⅲ (ページ16)

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「A、」

名前を呼ばれて、阿部さんから離れる。

彼の視線の先には、亀井さんが居た。

「亀さん、おはようございます」

『おはようございますっ、』

他の選手とお話をされていた亀井さんは、

私たちへと視線を移した。

亀「おっ、おはよ。昨日はよく眠れた？勇人の家、なかなか綺麗でしょ」

その亀井さんの言葉に、

選手の注目が集まった。

『「亀(井)さん！」』

声が重なって、勇人と互いを見る。

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慎「何だー、やっぱりそういうことなんじゃないですか～」

その慎吾くんの言葉が、更に現場を捲し立てる。

「え、付き合ってるんですか？」

「勇人の家泊まったの？」

「どこまでいってるの？」

囲まれていく勇人を横目に、

ため息をつく。

亀「あ、Aちゃん、鍵」

暢気に鍵を私に返してくれる亀井さん

優しいけど、有り難いけど

今だけは

『もうっ、亀井さん！』

亀井さんは、へ？って、とぼけた声をあげた。

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「ふふっ、なんだか楽しそうだね？」

聞こえた柔らかな声に、

無意識に反応してしまう。

慎「あ、彩登美さん！おはようございます」

彩「おはよう」

「何してん？」

彩「うーん、それはこっちの台詞だけど」

羽交い締めにして慎吾くんの口を押さえつける勇人を見て、彩登美さんは言った。

勇人は、苦笑いで慎吾くんから離れた。

場が収まりつつある今しかないと思った。

『私、そろそろ失礼します』

彩「えっ？もう行っちゃうの？お話ししたかったのに、」

『会社行かないといけないので』

彩「そっかあ、残念」

“また”なんて社交辞令を言う自分に

次なんてあるのだろうか。

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ロッカーから出て、廊下を歩いていると勇人に呼び止められた。

「悪い、騒がしくて」

『ううん、ご迷惑お掛けします』

「あんなの言わせときゃ良いんだよ。頑張れよ、仕事」

『勇人もね。』

じゃ、と戻っていく勇人の後ろ姿を

目に刻んだ。

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