好き、嫌い、好き Ⅱ (ページ10)

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私のマンションの前に止まったタクシー

財布を出そうとすると、勇人がドライバーさんに直ぐさまお金を渡した。

『勇人、』

「いいから、早く下りい」

私を追い出すように、勇人もタクシーを下りた。

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『ありがとう、ございます』

「こちらこそ。これから仕事よろしく」

『うん、』

“じゃあ”ってあっさり背を向けてしまう勇人。

まだ熱を持って余韻の残るさっきの光景に、もう少し話したいと思うのはわがままなんだろうか。

そもそも、そんな考えに至ることがわがまま？
普通の生活をしていたら、彼みたいな雲の上の人に出会うことはない。

一緒にいることも、名前を呼んでもらえることさえ奇跡なのに。

「A、」

高望みしちゃ、いけないのに。

「Aっ」

『、っ』

ハッとした。
危ない、自分の世界に入るところだった。

顔をあげると、数メートル先で彼が振り返っていた。

『なに？』

「早よ家入り。」

ああ、何でそんなに優しいの？
何でそんなにも気をかけてくれるの？

きっと、どんな女の子にもこんな感じなんでしょう？

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そんなこと聞けないし、言えない。

ただ、頷くだけ。

“ばいばい”も“またね”

も“おやすみ”も言わない。

だって私、この気持ち知ってるから。

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「またな、おやすみ」

『、』

やっぱり、彼は、狡くて
私より一枚上手なの。

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