好き、嫌い、好き Ⅱ (ページ3)

今日:11 hit、昨日:28 hit、合計:308,101 hit

16-2 ページ3

.

「入居祝い」

そう言って私に押し付けてきたのは高そうなワイン

“お邪魔しまーす”なんて言って、あっさり勝手に人の部屋に入ってきて。

慌ててその後ろ姿を追いかける。

.

「片付いてるな」

『人の部屋に勝手に上がって、』

そんな私の言葉も無視して、閉ざしていたカーテンを引いてドアを開けた。

「あそこ、俺の家だから」

『えっ、』

正面のマンションを指差した。
この前、健ちゃんと立派なマンションって話してたところ。

(やっぱり、お金持ってる人は違う‥)

というか、

『凄い近く』

「まあ、遠征で一年の半分はおらんけど」

『立派な家だねー』

「一人暮らしやから、広すぎるけどな」

“何か飲みもんない？”
ソファーに腰を下ろした彼は、そう尋ねた。

『お酒がいい？』

ドアとカーテンを閉めて、キッチンへと向かう。

「明日試合あるからお茶でええわ」

『ん、明日からは東京ドーム？』

「今週はずっとな。土曜がオフやねんけど」

(だから金曜に打ち合わせあるんだ、)

.

『どうぞ』

「ありがと」

さっきのテレビで見てた勇人とは、まるで別人
オンオフの切り替えが凄い。

『お腹すいてたら適当に作るけど、』

「ほんま？じゃあ、軽く頼むわ」

.

キッチンに移動して、ソファーにくつろぐ彼に声を掛ける。

『本当に野球選手なんだね』

「は？」

『あ、さっきスポーツニュース見てて。昨日の試合やってた。石川さんも亀井さんも、凄いね』

「‥野球あんま見んの？」

『うん。男兄弟いなかったし、父も仕事以外興味ない人だったからね』

“ふーん”って、質問しておいて興味なさそう。
それが一番勇人らしいけど。

「一人っ子？」

『ううん、妹がひとり』

「あー、それっぽいわ」

『そう？勇人は？』

「兄貴と弟がおる。母親は病気で亡くなった」

『そうだったんだ、』

知らないことばっかり。
打ち合わせまでに把握しておかないと

.

「飯うまかった。ありがとな、じゃ」

『おやすみなさい』

満足した様子で私の部屋を出ていった。

嵐のように来て風のように去っていった。

勇人からもらったワインを冷蔵庫にいれた。
大切に飲もう。

『寝よっと』

明日からまた頑張れそう。

自然と口角が上がっていた。

.