好き、嫌い、好き Ⅱ (ページ19)

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『勇人、‥勇人』

気だるそうにバーカウンターに突っ伏する彼は、数分前からずっとそのまま。
いつものペースで飲んでいたはずなのに、今日ははやくお酒が回ったしまったみたいだ。

健「勇人さん、大丈夫ですか」

「んー、あぁ、」

健ちゃんが声をかけてもこの調子で。

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『勇人、帰ろう。』

「んー、」

会計を済ませて、トントンと肩をたたく。

伏せていた顔を横にずらして、髪をかきあげた。
流し目で、私を見る。

合った視線に、ふいに身体が固まってしまう。

「お金払ったん？」

あんまり呂律は回ってない。

『‥ぁ、うん。だから帰ろ、』

はぁ、と小さくため息をついて最悪と呟いた。

女に払わせるとか何しとんねん、

あほばか、

って次から次へと言葉が出てきて。

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『っこれくらい大丈夫だから！また、ご飯連れてってよ』

「‥‥」

『勇人、疲れてるみたいだし帰ろう？』

真正面に、私を捉え直した彼は

じーーっと私を見た。

酔ってるとは言え、こんなに綺麗な顔に長いこと見られることなんて慣れてない。
合わせてきた視線をそらそうとすると、彼が私の左手を掴んだ。

(いつも大胆だけど、今日はさらに大胆だ)

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「俺、疲れてるように見える？」

『‥‥ぇ、？』

質問の意図がよく分からなくて、間抜けな声を出してしまう。

「やから、疲れてるように見える？」

『‥‥ちょっと、あ、でも素人目で見ただけだから、』

酔っていつもよりリアクションが大袈裟な勇人は、額に手を当てて眉間にシワを寄せた。

「‥素人にでも疲れとるって分かるってことやろ。そんなんじゃ、巨人キャプテンの名が廃れるわ」

ポツリと溢してしまったように聴こえたその言葉
彼も、やっぱり人間なんだと

思ってしまう。

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『それでストレスがたまっちゃったら、意味ないよ？』

彼の横に座り直して、そう声をかけてみる。

疲れてしまうことだってある。
しょうがない、巨人の坂本勇人だって
ひとりの人間だもん。

疲れてるキャプテンを見て、幻滅するチームメイトなんているだろうか。
野球のことは、まだまだよく分かってないことの事が多いけど

今日一日で彼が信頼されて慕われてることも
野球にまっすぐなことも、よく分かった。

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