煌(4) ページ5
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それからは宣言通り応援団として赴く試合には毎回友人を巻き込んで参加し、近くの高校と行う小さな練習試合があればその度観戦した。
どうこうなれるはずも無いのだから全力で木兎先輩の力になれるようなファンの一人でいる、と思っていたことに嘘はないけれど、感情に自制は効かないのだからどうしようも無いというのも本音。
結局両者が混在する胸の内でそれら二つがぶつかり合った末、勝ったのは後者。
初めて試合を見た日から一ヶ月、私は立派な″木兎先輩とどうこうなりたい女″に進化を遂げていた。退化かもしれないな、とも思う。
とはいえ私は入学したてのなんの取り柄もない一年で、相手はこの学校で知らない人は居ない強豪チームのエーススパイカー三年木兎光太郎。
当初の思惑通り私がいくら木兎先輩が好きだろうとその隔たりが揺らぐことは無くて、未だなんの接点も無ければ目が合ったことすらない。
そもそも試合会場まで応援に来ている生徒も数え切れないほど居るし、人の少ない練習試合の観戦では邪魔にならないよう意図して目立たない場所にいるのだ。
どうこうなりたいなどと思いつつ自分から何か木兎先輩にアクションを図ったこともない。ただ恋を自覚して時が過ぎていくばかりだった。目を逸らしていたけれど、この瞬間も木兎先輩に思いを告げている人もいるかもしれないのに。
「Aー、帰んないの?」
「あ、うん…今日委員会ある、」
センチな気分になりつつ友人にそう返し、また明日ねと別れを告げる。
筆記用具を持って赴くのは三年一組の教室。所属する委員会の担当の先生が三年一組の担任なのだそう。
三年一組というと、以前風の噂で聞いた木兎先輩の所属クラスだった。その時点で階段を下る足が震えるほどの高揚か緊張かが襲う。
そして辿り着いた三年一組の教室前、ごくりと喉を鳴らしてから扉に手をかけたとき。
「____うぉっ!?びびったぁ、ごめんね!?」
突如目の前でがらりと開いた扉に肩が跳ね、顔を上げた先に目に飛び込んできたその姿に思わず指先の力が抜けて持っていた筆記用具をその場に落とした。
「へぇ〜これ筆箱?こんなんあんだなぁ。カワイイね」
「っ!へ、あっ、は、はい、」
カワイイ、可愛い。
その響きだけを脳内でリフレインさせながら手渡された熊の筆箱を震える手で受け取る。その手が触れていた場所にそっと指を滑らせればじんわりと暖かくてぎゅっと胸が詰まった。
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みんみん(プロフ) - ゆららさんのお話、とても大好きです!楽しくってキュンとしながら読ませて頂きました!! (4月18日 9時) (レス) @page47 id: 708a20f575 (このIDを非表示/違反報告)
ルイ - 木兎さん最強でした……普段コメントしませんが、思わず感想をお伝えしたくなりました…!めちゃくちゃキュンとしました!! (2022年7月22日 2時) (レス) @page47 id: 448a7aaf1d (このIDを非表示/違反報告)
rry - ハイキューをテーマにした3作品読ませていただきました!全部最高で星10です! (2021年11月14日 22時) (レス) id: 7243f08c85 (このIDを非表示/違反報告)
ゆらら(プロフ) - 天羽さん» 天羽様初めまして!何度も読み返して頂き光栄です…!完結までもう暫くお付き合い頂ければ幸いです!コメントありがとうございました( ´ ` *) (2021年8月17日 12時) (レス) id: 4397bbbd69 (このIDを非表示/違反報告)
ゆらら(プロフ) - 紅月。さん» 紅月様はじめまして!糖分増し増しで頑張っていきますのでこれからもご贔屓にお願いします( ´ ` *)コメントありがとうございました! (2021年8月17日 12時) (レス) id: 4397bbbd69 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆらら | 作成日時:2021年7月10日 20時