大正浪漫に咲く恋 〈雪〉

□1部の記憶 ページ30

ピッ ピッ ピッ ピッ...


規則正しい、機械音が鳴り響く
その音で目が覚めた


「病室...？」



口には酸素マスクが付けられていて
少し声がくぐもる






寝返りを打とうとすると、腹部に激痛が走った
それと同時に手が握られていることに気づく



手の正体は...蓮だった
私の手を握って、ベッドの端で腕枕をして眠っている

私より大きな手を握り返したら
ビクッと動いた蓮




目「ん...え、Aっ！！」


蓮は即座に起き上がってナースコールを押した




目「A...」

そして、こちらを見て泣きそうな表情をする



「蓮...」



目「いつ、目覚めた？」



「さっき...」



目「まじでっ...心配した...」


その言葉と同時にぎゅっ、と抱きしめられる





「れ、蓮...」



目「俺の事、覚えてるんだ...」


そう呟いて、少し距離をとった蓮



「...覚えてる。けど...事故にあってからのことは、全く覚えてない...」



目「Aが、小さい子を庇って...そこにトラックが突っ込んできた。それで、Aはぶつかって...」



「...ぶつかった所までは、覚えてる
ねえ...小さい子たちは？無事だったの...？」



目「Aのお陰で、無事だった。
...その子たちが、守ってくれてありがとう、って言ってたよ」



「よかった...ほんとに、よかった...」


むしろ自分が助かったことよりも
小さい子たちが助かったことに安心した。



目「本当に、心配かけんなよ...
医者に意識戻らないかも、とか記憶抜け落ちてるかも、とか言われて...俺の事、忘れられんじゃないかって...」



「大丈夫...だったね...笑」



目「...俺が、...したことは覚えてる？」



「...なん、て？」



目「事故に遭う前、俺の家で俺が...したこと」



「...私、事故の前、どこに居たっけ...？」



目「...は？」


そういえば、事故の前の記憶が無い。

事故に遭う前の事を思い出す機会がなかったから
気にしてなかったけど、どこに居たんだろう。
大通りで、事故に遭った前...




目「まさか、忘れてる...？」



「うん...ごめん、覚えてない...」



目「まじか...何処まで、覚えてない？」



「覚えてるのは...会社の、保健室で寝てた...
そこまでしか、記憶にない...」



目「まじかよっ...」


確か、改札前で倒れて大正時代に戻ったんだよね
正直言えば記憶は少し曖昧だ。




「...あっ！会社っ...」


会社、行かないとじゃん...

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