「某日手芸部にて/第二話」 ページ3
持っていた荷物を置き、ビニールから小さなロゴマークのついた茶色い紙袋を取り出してお師さんに見せる。
「うむ、あそこは少々わかりにくいからね。さて、少し休憩にしよう。影片、お茶を淹れてきくれたまえ。」
僕は彼がパタパタと奥に入って行くのを見届けてから、袋の中身を覗いた。たっぷりの甘いバターと香ばしい小麦の香りが辺りに広がる。お師さん曰く、最近できた個人経営の小さなパン屋で、クロワッサンが美味しいらしく、それを求めて遠方からくる客もいるほどだと言う。
「ふむ、たまには影片も役に立つものだね。僕が行くといつも売り切れていて中々買えないのだよ。」
見上げるといつの間にか近くに来ていたお師さんが袋の中を覗いて満足そうに微笑んでいた。
「お茶淹れてきたで〜」
皿と紅茶を乗せたトレーを持ったかげくんが奥から出てきた。この香りはおそらくアッサムだろうか。
机の上に紅茶と、皿に乗せたクロワッサンを並べ、それぞれ席についた。
「いただきます。」
一口齧ると暴力的なほどの芳醇な香りが口の中を支配した。パリパリの表面は香ばしく、中は水分を含んだようにふんわりとしていて、その美味しさについ食べる手が止まらなくなる。
ふと向かいに座るお師さんを見ると、最初に香りを楽しんでいるようだった。そして育ちの良さが滲み出る手付きで一口分千切り優雅に口へ運んだ後、まぁ悪くはないねと言葉を残した。
かげくんは、良いものを食べるとお腹を壊すらしく、紅茶を飲みながらクロワッサンを食べる僕たちの様子を幸せそうに眺めていた。
「お師さんたちの役に立ててるみたいで、なんや嬉しいわぁ〜」
「んふふ」と笑い足をパタパタさせている彼が再び僕を視界に入れた途端、ガラス玉のような目を丸くさせてぽかんと口を開けた。
「…んあっ？！A兄ィもう食べ終わったん？！ほっぺぷくー膨らまして、ハムスターみたいやなぁ♪」
「なに？！もう食べ終わったのかね？ゆっくり食べたまえといつも言っているだろう？あぁそんなに口の周りに皮を付けて。」
「おいふぃかった、バターの甘さが口いっふぁいに広がっれ‥‥」
「口いっぱいに頬張れば当然だろう。そんな君も愛らしくはあるけれど、Valkyrieの一員たるもの常に上品に振る舞わなければ‥‥ああ咀嚼する度に皮が落ちて、自分で取るには難儀するだろうから来たまえ、僕が取ってあげよう。」
「はいお師さん！ナプキン♪」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 230人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
みん。(プロフ) - 朱憑（さぶ）さん» コメント下さりありがとうございます！！好き、何周もしているとのこと、感無量でございます！！！そして御指摘の通り仁兎です！ハチャメチャに誤字しておりました！すぐに修正しました気づいてお教えて下さりありがとうございます！！！ (2023年2月21日 0時) (
レス) id: febc79156f (このIDを非表示/違反報告)
朱憑（さぶ） - この作品好き過ぎて何周もしています笑 ところでなのですが…なずな君の苗字。二兎ではなく仁兎だと思います…！ (2023年2月19日 16時) (レス) @page14 id: 369ab47d46 (このIDを非表示/違反報告)
みん。(プロフ) - おかゆさん» コメント下さりありがとうございます！この作品がおかゆ様の目に止まったこと、そしてページを開いてお読み下さったこと、嬉しい気持ちと感謝で今胸が満たされております！おかゆ様の心にジャストミートできて良かったです！！ (2022年12月27日 23時) (レス) id: febc79156f (このIDを非表示/違反報告)
おかゆ(プロフ) - Valkyrieの作品を探していたらたまたま見つけ読んでみました。雰囲気などがドストライクでした。好きです。これからも更新頑張って下さい。 (2022年12月27日 22時) (レス) id: 4ef80cb4cb (このIDを非表示/違反報告)
みん。(プロフ) - 百華夜さん» ぬわぁー！まさかコメントを戴けるとは思っておりませんでした！！お読みいただきありがとうございます、そして励ましのお言葉心から感謝致します！！ (2022年12月27日 16時) (レス) id: febc79156f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：みん。 | 作成日時：2022年11月24日 1時
