本来の私は ページ26
.
昨日は衣装から私服に着替えずにバイト先へ向かったのに加え、洗濯も眠気に負けて放棄。
今日の劇場の出番でその衣装を使うことを思い出した時には、もう家を出る30分前になっていた。
「もしもし、おはようございます。急で申し訳ないんですけど、今日黒色のTシャツ貸して貰えません…？
サイズはL以上やったらなんでも…あ、はい！ありがとうございます、ほんまに助かります…！」
先輩に慌てて電話をかけ、それ以外の衣装や小道具、その他必要なものをまとめていつもより少し早めに家を出る。
劇場近くのコンビニに寄り、先輩に電話で頼まれたおにぎりとお茶、そして頼まれてはいないが先輩がネタ帳とにらめっこする時によく飲んでいるエナジードリンクを購入。
「ありがとうございます！あとこれ、頼まれてたやつとモンスターです」
「俺もありがとうなあ。あ、そのTシャツ貰ってくれへん？無地Tシャツありすぎるから、ちょうど断捨離しようと思ってたところやったんよ。
安モンやけど、お前のあのボロボロ衣装よりは全然使えるし捨てるよりはええやろ」
「あの衣装はもはや相棒同然なんで悪く言わんといてください、今頃家で泣いてますわ」
「可愛げがないねん、お前は。生意気な奴はこうやぞ」
「え、ちょっと待ってごめんなさい！貰う！ありがたく頂戴します！！」
力は入れられてないものの、後ろから絞められるような形になったため私も先輩の腕を叩いてギブアップを主張する。
こんな感じで先輩も後輩も、もちろん同期も良い意味で“女性”として扱ってくれるわけではないので、昨夜とは一変した扱われ方に「やっぱり私はこうでなくちゃなあ」と思ったり。
だから、芸人になってからすっかり男勝りになった私をまだ女性扱いしてくれる人がいてくれてたなんてびっくりやなあ…と、男になった私を鏡で見ながらそう思った。
そういう印象を覆して、もはや私を女として見れなくなる人が多くなった時こそ、コーヒーフロートが芸人として売れたという証だということは分かっているし、今まではそれを目指して芸人を続けてきた。
でも、人生ではじめて「ちょっとそれは嫌かも」と思った自分に嫌気がさす。
…昨日の電話から、私はちょっとおかしいのかもしれない。
“もしもし、家着いた？”
“うん、良かったわ。それじゃ”
「女性として見られたい」なんて、今の私には1番必要のない感情なのに。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 280人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
もやし(プロフ) - Sara_nさん» 返信遅くなりすみません。一通り確認してみたのですが、私の端末では最後まで名前変換が対応していたので改善が出来ず……申し訳ないです。過去の更新の仕方に何か問題があったのかと思います。ご指摘ありがとうございました。 (2022年11月27日 16時) (
レス) id: d1393d657d (このIDを非表示/違反報告)
Sara_n(プロフ) - 途中から名前変換が対応してません… (2022年11月19日 8時) (レス) @page28 id: 90a98b993e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：もやし | 作成日時：2022年9月3日 2時
