理想怪奇「死竜魔」 (ページ33)

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第五章　【理想怪奇「死竜魔」】ページ33

息を呑む。
　たしかに、蘇生は禁忌にして禁呪、理を覆すに等しい大罪。死霊魔術(ネクロマンシー)は死体や霊魂を扱う魔術に対し、彼女が今から行おうとしているのは完璧な『死者を生者に還す』魔術だ。

「勿論、これは一世一代の賭けでもある。夢の珠がどれほどの代償を要求するのか、それに応えられるほどの代償が揃いきっているのか、そもそも成功するのかすら分からない。けれど、私はそれを成し遂げなくてはならない。全てはあの子の為、あの子が本来受けるはずだった生の喜び、幸福をもう一度手にいれる為に。
　君たちに危害は加えないつもりだ。やる事をやったらあとは好きにして構わない。お互いに無駄な時間を掛けたくはないであろう？」

　どうする、と夢乃に聞いてみる。しかし、彼女の答えはとっくに決まっていた様だ。

「……あいにく、家族で守ってきた家宝をどこの誰とも知らない奴に預けられるほど寛容じゃないの。それに“蘇生”ですって？どんな悪徳商法に騙されているのかは知らないけれど、その為だけに他人を巻き込むなっての。返す気がないなら、今ここで倒してあげる」

　夢乃の返答に、相手はクツクツと不敵に笑う。

「やはり私たちは相いれられない様だ。宜しい、ならば決闘といこう。君たちが勝てば夢の珠を返し、私が勝てば君たちの命を頂戴しよう」
「“命”！？決闘のルールでは命に関わる命令は出来ない筈だぞ！？」
「そう。しかしルールを『占領する』ことで、私自らが決闘のルールとなるのだ。
　私の力は『占領する能力』。土地から概念まで、あらゆる所有権を占領するのが私の力！」

　相手が指を鳴らす。その瞬間、庭園のガラス天井が全て割れ、月光を反射して粉々に散っていく。床一帯がチリアンパープルに光り、庭園の草花は3人の決闘場所を作るかの様に引いていく。
　相手の背中から身の丈程の大きな竜の翼が生え、彼女は宙に飛ぶ。

「この世界では、揉め事があると武力行使で互いの意見をぶつけ合うのだろう？ならばそのルールに則り、決闘と行こうではないか。
　貴様らはこの理想の都の為に、私は要らない戦いで命を散らした家族の為に！互いの理想をぶつけ合う時だ！！」