理想怪奇「死竜魔」 (ページ32)

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第五章　【理想怪奇「死竜魔」】ページ32

［九ノ月・十五日二十時四十分ごろ］

「……ルナディ、だっけ？……どうして急に主君に合わせようと思ったんだ？」

　そう聞くと、相手は足を止めることなく答える。

「お嬢の意思だ」
「主君の？」
「お嬢の伝令がつい先程届いた。『花坂の華道家と異世界からの魔剣士を通せ』と」
「急な心変わりかと思って気持ち悪がるところだったわ」

　ルナディは舌打ちをして「何故このような無礼な下等生物共を……」と不満を漏らしている。

　地下空間を進んでいく途中、壁沿いに扉があった。ルナディはそれを無視して突き進む。

「あの扉は？」
「貴様に答える筋合いはない。客人は客人らしくもてなされていろ」
「ハイ……」

　そうしている間に一番奥に鎮座する大きな扉が姿を現す。
　両扉を開けると、そこは外に繋がっている庭園であった。夜空を照らす月明り、それを受けて美しく輝く花々、同時に腐敗臭が鼻をつく。本来ならば美しい花々に見惚れて良い筈なのだろうが、その影に隠れる様に干からびた死体が転がっているのだ。花の香りと死体の腐敗臭がむせ返りそうな匂いとして充満している。
　ルナディが道を開け、俺と夢乃は庭園の中心で優雅に紅茶を嗜んでいる女性を目にする。彼女がルナディの言う「お嬢」なのだろう。

「よく来たな、花坂三十五代目。それと異世界からの魔剣士。私はアップル・スカルデッド。まあ立ち話も何だ、席を用意したから座ると──」
「あいにく、あんたに付き合う暇はないの。単刀直入に言うけれど、夢の珠を返して」
「貴様、お嬢の前で不敬を──」
「ルナ、良い」

　アップルがルナディを制止する。彼女が席を外せと命令すれば、ルナディは軽く頭を下げ庭園から出て行く。

「召使のルナディが君たちに手をあげてしまった様だな。彼の非礼を詫びよう」
「ならそのお代に夢の珠を返してちょうだい。アレが祠の中にないとどうなるか、管理している私でも分かったものじゃないの。下手したら理想の都が崩壊するかもしれないのよ」
「ああ、返そうとも」

　この返しには夢乃も驚いている様だ。「え、」と声をあげ、眉をひそめる。

「……ただし、私の悲願を達成するまでは夢の珠を拝借したい。代償さえ払えばどんな願いでも成就する理想創造七賢主の力が宿った宝玉ならば、理すら塗り替える事が可能だろう。私はその為に多くの犠牲を出してきた」
「……その『悲願』って、何だ？」
「“死者の蘇生”」