凪いだ心に (ページ25)

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顔を上げると、そこには天喰先輩。

「あっ、こんばんわ」

「こ、こんばんわ」

ぺこりとお辞儀をする。

少し気不味い空気が流れたが、天喰先輩が意を決したように聞いてきた。

「波動さん、一人で来たの？」

「いえ…姉と来てたんですが逸れてしまって…」

高校生にもなって迷子とか恥ずかしいな。
やばい奴って思われてないかな…。

「そうなんだ…連絡は取った？」

「姉の所に携帯を置いてきてしまって…」

天喰先輩は顎に手を当てて何かを考え込んでいる。

こ、ここで見捨てられたら…いや、でも天喰先輩はヒーロー志望だし…あぁ、でも…。

顔を青ざめながらそんな事を考えていると、天喰先輩は私から数歩離れて携帯をポケットから取り出した。

「ーー。ー…ーー」

小声で何を話しているかは聞こえないが、辺りを見回している。

話終えると天喰先輩は携帯をしまってこっちに戻ってきた。

「俺も、ミリオと来てたんだけど、今波動さんと一緒にいるらしいから…あ、三年のね…此処で待っておこう」

「は、はい。ありがとうございます…！」

「えっと…じゃあ、あっちに座っておこう」

近くにあったベンチを指差しながら天喰先輩はこっちを見た。

二人で並んで座っているが、話すことが何もない。

「「あの…ぁ」」

話し出すタイミングが被った。
ある意味凄いと思う。

「は、波動さんからどうぞ」

「えっと、じゃあ…」

ふぅ、と一息ついて口を開く。

「さっきは、ありがとうございました。出来ることなくて困ってたので、凄く助かりました。その…天喰先輩は、私のヒーローですね…」

…こんな事言って大丈夫だったかな。

ちらりと天喰先輩の顔を見ると驚いて目を見開いていた。

「あの…先輩？」

「あ、えっと…そう思ってくれてたなら良かった……」

ふいっと顔を逸らされたのが少し悲しかったが、急に
あんなこと言われて驚かないわけないか。

「はい…あ、先輩次どうぞ…」

「あー…えっと…浴衣、似合ってる、よ」

にこりと笑いながら先輩はそう言った。

思いもよらなかった言葉に体が強張る。

え、似合って…え？

顔に熱が集まる。

「あ、ありがとうございます…」

赤くなってるであろう顔を隠すように顔を逸らしながら言った。

あぁ成程。先輩もさっきこんな感じだったのかな。

暫くその状態でいると姉の声が聞こえた。