オトナ ページ3
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「……藤咲さんだよね」
あの日広瀬は、唐突に私の前に現れた。
会社では、同じ部署だけれど静かだったから、あんまり印象に残ってなかった男。
「あんた、どこにいても眠そうなのね」
「……それより、こんな所でなにしてんの」
広瀬は傘をさしたまま 私を覗き込んで、不思議そうに頭をかいた。
どうせ軽蔑してるんでしょ。
いつも男に囲まれてちやほやされている私が、こんな姿で雨に濡れているなんて。
……それとも、あいつらみたいに家にでも連れ込む？
それが目的の優しさなら、死んだほうがマシだわ。
「……なんでもないわ」
「……そんな訳ないだろ」
彼は呆れたようにため息をつくと、変な柄のハンカチを差し出した。
なにこれ、猫？怪獣？
悪趣味ね。
この人、こんな私にハンカチを渡すなんて 何が目的なのかしら。
「……他の男は、シルクのハンカチをくれたわ」
「そう。ほら、これも着とけよ」
仕事帰りのジャケット。
それは嫌になるくらい暖かくて、一瞬心が緩んでしまった。
「……立てる？」
手を差し伸べられる。
ゴツゴツしていて、大きな手だった。
「……こんな格好で帰れないわ。あなたの家に泊めてちょうだい」
「……我儘な女だな」
彼は諦めたようにそう笑うと、私を抱き抱えて タクシーに乗せた。
料金がどんどん上がってゆく。
彼は下着が透けてしまっている私を気遣ってなのか、こっちを見なかった。
「……藤咲さん」
「なに……っ」
そう言われた途端、手がほわんと暖かくなる。
広瀬の手に、包まれていた。
「……なんなのよ」
何でこんなに、苦しくなるの。
胸の奥が今まで感じたことのないくらい熱くなって、ズキズキと痛み出す。
「……手、冷たいね」
「……冷たい方が、好都合なのよ」
特に冬はね。
すべて知っているかのように優しく微笑むと、大きなゴツゴツした左手で、私の頭を撫でた。
馬鹿みたい。
ほんと、馬鹿みたいよ。
涙が次々と溢れて止まらなかった。
拭っても拭っても治まらない。
まるで、今まで堪えていた分が 全部弾けたような。
……辛くなんてないわ。
だって、私は今までもこれからも、良い女なんだもの。
雨音が妙にうるさく聞こえた。
彼は自宅に着くまで、私の手を握っていた。
お気に入りの桃色の傘を畳む。
何年経っても雨の日が来たら思い出すのね。
そう思いながら、広瀬の隣の部屋に入っていった。
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天宮みんく(プロフ) - 夢さん» ありがとうございます……！励みになります(；＿；) (2018年3月1日 0時) (
レス) id: c59fc0c6df (このIDを非表示/違反報告)
夢(プロフ) - 全部読ませてもらいました。とても感動しました！みんくさんのペースでいいのでまた、更新されるのを待ってます！ (2018年2月28日 21時) (レス) id: 2704df8cf2 (このIDを非表示/違反報告)
ちぇりー(プロフ) - 1の時から読んでましたー！更新待ってます！ (2017年11月10日 23時) (レス) id: 86df69332d (このIDを非表示/違反報告)
そのだ(プロフ) - カファット5さん» 貴方は何を思ってこの方を庇っているのですか？ (2017年9月11日 7時) (レス) id: 103f1e7372 (このIDを非表示/違反報告)
americasings(プロフ) - やっぱり民度の低い作者には民度の低い信者が付くんですね。誰とは言わないけど、著作権はどうでもいいとか抜かすあたりみんくさんそっくりですね。あとさっさと釈明したらどうです。またほとぼりが冷めた頃に戻るつもりなんでしょうけど、皆監視してますから。 (2017年9月10日 0時) (レス) id: fbd008e240 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：天宮みんく
| 作者ホームページ：@Tengu_Mink
作成日時：2017年8月16日 9時
