オトナ ページ15
.
一日の仕事を終えてバスを降りる。
足を下ろした瞬間から 肌を通り抜けるひんやりとした空気。
丸い月、吸い込まれそうなほど深い黒。
イヤホンをしまって 見慣れた並木道を過ぎると、私の家が見える。
「……はぁ」
静かに息をつく。
秋の夜は、冷たい風が心の外側でじっと息を潜めていて 少し怖いと思った。
ふとした瞬間に サッと内側に入り込んで、どんどん内側の温度を下げてゆく。冬なら余計に。
淡いオレンジの街頭がぽつりぽつりと並ぶだけのこの道は、いつも私を不安にさせた。
冷えてゆく心が、家に帰っても 彼に、そらるさんに会えればいいのにと言っている。
「……っ」
唐突に、ポケットの振動と共に私を驚かせるのには十分な音が鳴った。
慌てて開いてみると、その正体は新しいメッセージが届いたことを知らせる通知で。
相手を確認すると、そらるさんだった。
「……そらる、さん…………」
瞬間、暖かい、桃色と赤と橙色が混合したような気持ちに包まれる。
そして、同時に胸も熱くなった。嬉しかったから。
そらる:(不在着信)
私が慌てている間に どうやら電話が切れてしまっていたようで、急いでかじかむ手を抑えてコールボタンを押した。
機械的な音。一コール目からドキドキしている。二、三と続いて四コール目で彼の声は響いた。
「遅い」
端末越しでも見える、彼の不満そうな表情。きっと仏頂面なんだろうな……。
「ご、ごめんなさい！慌ててしまって……怒ってます？」
「……どうかな」
う……と縮こまっていると、いたずらな声が私を誘った。
「今から、俺のところに来るなら 怒ってないよ」
「…………強制ですよね」
「当たり前」
甘ったるく笑うそらるさんには、いつも敵わない。
そう思いながら、私は指示された場所に向かった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 198人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
天宮みんく(プロフ) - 夢さん» ありがとうございます……！励みになります(；＿；) (2018年3月1日 0時) (
レス) id: c59fc0c6df (このIDを非表示/違反報告)
夢(プロフ) - 全部読ませてもらいました。とても感動しました！みんくさんのペースでいいのでまた、更新されるのを待ってます！ (2018年2月28日 21時) (レス) id: 2704df8cf2 (このIDを非表示/違反報告)
ちぇりー(プロフ) - 1の時から読んでましたー！更新待ってます！ (2017年11月10日 23時) (レス) id: 86df69332d (このIDを非表示/違反報告)
そのだ(プロフ) - カファット5さん» 貴方は何を思ってこの方を庇っているのですか？ (2017年9月11日 7時) (レス) id: 103f1e7372 (このIDを非表示/違反報告)
americasings(プロフ) - やっぱり民度の低い作者には民度の低い信者が付くんですね。誰とは言わないけど、著作権はどうでもいいとか抜かすあたりみんくさんそっくりですね。あとさっさと釈明したらどうです。またほとぼりが冷めた頃に戻るつもりなんでしょうけど、皆監視してますから。 (2017年9月10日 0時) (レス) id: fbd008e240 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：天宮みんく
| 作者ホームページ：@Tengu_Mink
作成日時：2017年8月16日 9時
