【Ｌ】宝石箱 (ページ19)

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ソーダに沈むページ19

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そこには、さらさらと流れる小川があった。

「きれい……。」
「……小鳥の声もします。」

彼の通り、ここは小鳥の声と川の流れる音以外なにも聴こえなかった。

バタンとドアが閉まる音でさえ際立つほど。
でも、それらを全て受け入れる寛容さをもった雰囲気が伝わってくる。

「行きましょうか。」
「うん。」

こういう時、手を繋いでいいのかダメなのかよく分からなかった。

近くて、遠い距離。
さくさくと木漏れ日の中を進むと鳴る足音。
縮まって、遠くなるを繰り返すころに、うっすらと隔たりを感じてきた。

「どうぞ。」

見ると、彼は立ち止まって手を差し伸べていた。私に。
……こんなことされたら、嫌でも期待してしまうじゃないか。

「ありがとう。」

有無を言わず、その体温を求めてしまう。まるで恋人のようだと静かに思いながら。

＊

「透き通ってる。」

小川を見たとき、初めにそう思った。
すべてが透明にうっすらと色をつけて、すうすうと流れていたのだ。

わたしは吸い込まれるようにそこに入ってゆく。
生ぬるい風が肌に心地良い。

「A。」

つま先から、石に乗る感覚とざらざらとした砂、そして水のひんやりとした冷たさがいっぺんに伝わってきて、うっとりとした。

続けてくるぶし、ひざこぞう、ふとももと、一心不乱に進んでゆく。

ざぶざばざぶん

ちょうど腰ほどの深さがあるところまできた時、私は彼に手を振って沈んだ。
力を失ったようにどぶん、と。

瞬間、
目の前を小さな泡のつぶたちが過ぎ去っていった。
しゅわしゅわとしていて、まるでソーダのようだった。

髪が流れにそってふわりふわりと浮かんでゆく。
右手、左足と徐々に浮かせていき、次のまばたきをするころには、もう水と一体化していた。

沈んでゆく。深くまで。

私の上を魚が泳ぎ去るのがおかしくて、空気を大量に吐きながら笑った。

丸い粒がきらきらと登ってゆく。
ソーダには、チェリーが似合うなぁなんて思いながら。