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「…はいどうぞ。じゃあ八乙女くん、もう1回さっきの話をしていいかな」
「うん」
「じゃあまず"いのちゃん"っていうのは、誰のことなのかな」
「いのちゃ…先生ことだよ」
さっきこの部屋に入った時に聞こえてきた会話と同じだ。もしかしてここから進まないんじゃないかと思う。既に破綻しそうな話だ。
でも彼の声は歪まなかった。嘘はついていない。
「僕は高槻彰良って名前だから、どこにも"いのちゃん"の要素はないんだけど、それでも僕が"いのちゃん"なの?」
「うん、先生がいのちゃん。でも年上なのは予想外だなぁ、今までは同い年か年下だったのに」
「"今までは"ってどういうこと?」
「ん〜…、1個前はいのちゃん家政夫さんで、その前は宇宙人で、その前は…バーテンダーだったかな」
指を折りながら思い出話をしているような軽さで話す八乙女くん。
その発言に一つも嘘がないのが、今はいちばん怖い。
もしこれを本気で言っているのなら、失礼かもしれないが病院に行った方がいいんじゃないかと思ってしまう。
それでも先生は、至極真剣な表情で聞いていた。
「…やっぱりいのちゃんも、俺の事おかしいって思う?」
「"も"?」
「うん、薮も…あ、薮も分かんないか。幼馴染なんだけど、薮にもちっちゃい頃に頭おかしいって言われたから。今もこの話はあんまり真面目に取り合ってくれないし」
拗ねた顔をした八乙女くんは1口ココアを飲むと、「…甘い」と呟いてまた悲しそうな顔をした。
「…残念だけど、僕には家政夫やバーテンダーだった記憶は無いし、宇宙人でもない。でも宇宙人はいるのなら是非会ってみたいかな」
「ん〜今回はいないと思う」
「そっかぁ、それは残念」
「…ふふっ、今回のいのちゃんが1番ちゃんと話聞いてくれるなぁ」
にこにこ笑ってまたココアを飲んだ八乙女くんは、やっぱり一瞬悲しそうな顔をした。
「今までは聞いてくれなかったの?」
「1個前のいのちゃん…光くんは、俺より頭悪かったし、冬ノ介はなんだかよく分かんなかったし、その前は話す前に死んじゃった」
「死っ…!?」
聞き役に徹するつもりだったが、予想外の言葉に流石に驚いてしまった。
「…ということは、最後の彼以外も亡くなったのかな?」
「ううん、そっちは俺が先に死んだ」
「えっ!?」
こっちの頭がおかしくなりそうな話だ。
俺が、って、じゃあ今目の前にいるのはなんなんだ。
これでなんで全部嘘じゃないんだ。
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しろみ(プロフ) - おこげさん» 嬉しいです〜!こちらこそ読んでいただいてありがとうございます!! (2022年2月1日 23時) (レス) @page9 id: a728324ea6 (このIDを非表示/違反報告)
おこげ(プロフ) - hkinが大好きなのですが、どのお話も素敵でニコニコしながら読ませて頂きました!素敵なお話をありがとうございます! (2022年1月29日 18時) (レス) id: ec6c8a8fda (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しろみ | 作成日時:2021年11月29日 13時