５５話 ページ7
赤羽カルマside
第一印象は「面白い子」だった。
見るからに発育が全体的に悪い小さな身体全体を使って、自分を必死に主張している姿がとても可愛く思えた。
声が出せないと言った彼女の言葉を初めて聞いたのは、寺坂が彼女を侮辱したときだった。
その瞬間、成程な、と思った。
そりゃあ、必死にもなる。声が出せないという重大な疾患を抱えて生きるのには真正面から何振り構わずぶつかっていくのが正当なんだな。
走ることができないほどの運動音痴で、勉強はできるくせにとてつもない馬鹿で、
理事長の姪って聞いた時は腹がよじれるくらい笑った。だってウケるでしょ？ あの魔王親子の親戚が妖精みたいな子とか。
南の島でおじさんぬを含めた殺し屋二人が言っていた彼女の父親のこと。総じて評判は悪いようだけど、でもなんとなく、狂っているという点では似ていると思った。
関わっていくにつれて彼女の人間っぽさを感じられなくなっていった。
まるで反応するだけの機械みたいな、そんな印象。
でも、そんな俺の印象は尽く覆された。
「ア゛ゥ゛エ゛ェ゛」
俺が彼女から人間味を感じなかった最大にして唯一の理由。それはあまりにも負の感情が乏しいというよりなかった。
確かに馬鹿にした時なんかは怒るけど、それはどこかふわっとしていて柔らかい怒気だった。
つまりは本気で怒っているんじゃないってこと。
「なんか、やっと人間っぽいところを見た気がするよ」
１４年。それは俺が今まで過ごした時間であり、彼女が狭い病院で閉じ込められて生活した時間。
多分、浅野とかには気を使って弱音とか言ったことないんだろうな。
孤独。それすら安っぽく聞こえるくらいの寂しさを抱えて、俺が知らないような恐怖と戦って、それでも堪えきれずに泣きじゃくる彼女が――――
好きなんだと知った。
「お望み通り、助けてあげるよ」
今までずっと笑顔を絶やさなかった彼女に手を伸ばす。
ふわりと風が吹く。
握った彼女、Aの手は優しいくらい暖かかった。
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