９８話 ページ49
「ぅぁぇ゛ぐッ！！！」
噴き出す赤。ほら、やっぱりここにきていい身体じゃないじゃん。
って、そんな落ち着いてる場合じゃねえ！！
「ちょ、救急車ッ！」
「心配はいらない。どうせすぐ――――」
「『人魚』が来るから？」
ベストタイミングで現れたAさんのお父さん。
二人の不仲はその場の空気で察する。
それでも理事長は「救ってください」と頭を下げた。
「言われずとも」
白衣と治療器具と、多分移植用の臓器が入ったケース。
「殺せんせー、助手をお願いするんだよ？」
え？まさかここでする気じゃ。
「全臓器移植開始、って感じだね」
つくづくあの男は正気じゃない。
俺でもここからじゃ病院まで間に合わないことは解るけど、だからと言ってここで！
設備も消毒も整ってないこの隔離校舎の山奥でやるのか！？
成功率たった１％がさらに下がるぞ！
でもこの男は止めない。
殺せんせーも生徒を生かすために最善と尽くす。
人目もはばからず上の服を取り払って、多分まだ意識はある娘に迷いなく執刀する父親。
その場にいた中には吐いた人もいた。初めてみる手術から目を背ける人。
俺はただ見ていた。
たった１パーセントでもいいから、明日おはようと言える日を願って。
人を人とも思わない無茶苦茶な技法と、論拠を感じさせない迷いなき技術。
肺を取り換えて、肝臓を入れ替えて、腎臓を入れ替えて、胃を入れ替えて、腸を入れ替えて、その他、俺が知らない臓器もすべて入れ替えて。
血液も何もかも入れ替えて。
生きられたとしてあれはAさんのままなのだろうか。
臓器には感情が宿るという話を聞いたことがある。
でもたとえ人格が変わったとしてもAは俺たちの仲間、それは揺るがないし、そのためにAさんは今、不可能に挑戦中なんだ。
俺が弱音を吐いちゃいけないな。
「脈拍安定、血圧良好。うん、成功だね」
執刀し始めてから５時間。
誰一人その場から離れることなく、軌跡を見届けた。
「よかった……」
思わず漏れ出た俺の言葉を筆頭にクラスメイトは歓喜に打ちひしがれる。
テストで５０位以内に入った以上の喜びだ。
あぁ、よかった本当によかった。
意識を取り戻すのは最低でも３日後だと言うので、俺たちは待つことにした。
また全員揃うそのときまで。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 5人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
