７７話 ページ29
赤羽カルマside
死神に俺たちは全員捕まった。
それが結論。圧倒的な差の前に敗北。
でも、分かんないことが一つある。
「ねぇ、ビッチ先生。アンタ、Aさんに何したの？」
「…………」
ここからでも聞こえてくる鼓動に合わせて収縮を繰り返す瞳孔。
誰目から見てもわかる。
今の状態がヤバいってことくらい。
「私にもよくわかんないわ。でも一つだけ言えるのは、それはもうAじゃないってこと」
『特殊臓器献体』。
裏の世界の殺し屋たちの間でささやかれる言葉。
それがAさんを指すものだとしても、その意味が解らない。
「君は、人魚の肉の話を知っているかい？」
突然死神が語りだした。
何なんだよ。この若作り野郎。
「確か、食べると不老不死になれるって奴だよな……？」
磯貝が呟く。
「そうさ。彼女の場合は食べると言うよりは移植したの間違いだけどね」
「おっと、それ以上は極秘なんだよ？」
ゾクリと背筋が凍った。
今朝、死神が教室に入ってきたときのような。
「え、誰……？」
透き通るような金髪を持った好青年のイケメン(誰かが爆ぜろと呟いた気がした)がそこにいた。
あの厳重な警備の中、一体どうやって？
「誰だい、君？」
死神は平静を装っていたけど、多分動揺している。
「おいおい、それを聞くのはこっちだと思わなくもないんだよ？」
いや、立場的にアンタの方がイレギュラーだろ。
「どうやってここに入った？」
「自己紹介ご苦労様。変な名前だと思うんだよ？
うん、分かってるさ。僕もそこまで落ちぶれちゃあいない。それが名前じゃないということくらいわね。
そして僕が訊きたいのもそんな言葉じゃない。
この人畜有害で冷酷非道で優しい僕が、名前と職業と死亡動機を聞いてあげるんだよ？」
言ってること無茶苦茶だなこの人。
「僕は死神と呼ばれる殺し屋です。死亡動機は特にないかな」
それと同時に繰り出される回し蹴り。
「分かってないなァ」
蹴りを簡単に受け止めて、死神と顔を近づける。
「娘が殺されそうな現場に父親が立ち会ってるんだよ？ 死亡動機はそれで十分。不十分さを感じないくらいにね。
『人魚』の前で『人魚喰らい』ちゃんを殺めたら、泡になるのはそっちの方だよ？」
娘……。
一瞬見せた真顔でわかった。
峰刃リンヤ。
Aさんの父親だ。
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