６３話 ページ15
浅野学秀side
体育祭が終わった。棒倒しの結果は完敗。
情報戦でも負け、作戦でも負け、戦況把握でも負けた。
言い訳をさせてもらうなら、僕はあの時本調子ではなかった。
Aに余命がばれたことが完全に尾を引いている。
僕にとって彼女がいかに大きな存在か、改めて痛感させられた。
だが、そんな妥協を許すような人じゃないことを僕はよく知っている。
ケヴィンたち、屈強な外国人をミンチにした理事長(化け物)は、ケヴィンの体操着で返り血を拭きながら、黒帯をとった時の話をしている。
「……ねぇ、浅野君。負けたというのに、何故君は……死ぬ寸前まで悔しがっていないのかな？」
化け物め！ 完全に魔物かなのかだ！
「君が死ぬ寸前まで悔しがったのは、後にも先にも一回きりだったね。それでも君は学べなかったわけだ」
それだけはアンタに言われたくない。
小学校高学年の時、年齢を重ねるにしたがってAから足が遠のいていた僕が次にAにあったのは彼女の誕生日で、前にあった時から一年が過ぎていた。
女の子が好きそうな可愛いぬいぐるみを持って行ったその時には、Aは触覚を除いた五感のすべてが停止していた。
僕の姿は見えない。僕の声は聞えない。あげたかった飴のあじもわからない。
幼く、未熟だった僕にとってその時のことはトラウマレベルで脳裏に焼き付いていた。
「Aを学校に行かせたのは貴方でしょう」
あなたが突き上げて落とした。
僕は余命のばれた翌日ほどAの強さに感謝したことはない。
絶望の淵にいて、僕らのことを嫌いになってもおかしくない状況で、必死に平静を保って、まだ生きたいと、学校に行きたいと言っていた。言ってくれた。
あれから彼女は僕の事を「従兄くん」ではなく「浅野くん」と呼ぶようになってしまった。
たぶん、どんなに謝っても無意味なんだろう。僕は最近間違いだらけだ。
でも、これだけは解っている。
「おい浅野！二言はないだろうな？ 磯貝のバイトの事は黙ってるって」
「……僕は嘘はつかない。君たちと違って姑息な手段は使わないからだ」
「でも、さすがだったよ。お前の采配。最後までどっちが勝つかわからなかった。またこういう勝負しような！」
他意のない言葉を発する磯貝の手を取ることはしない。でも、言わなくてはならない。
「Aの……見舞いに行ってやってくれ。病院に話は付けておく」
僕ら家族よりもE組のほうが信頼されている言うことは。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 5人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
