６１話 ページ13
暗殺の訓練でちょっとは力が付いたはずの身体でも、学校の後は動かすのが辛くて手すり伝いで歩きます。
「―――――」
「ずいぶ――――だね――――」
なにやらナースステーションから声が聞こえます。
よく聞けば従兄くんと叔父さんの声です。二人一緒にいるところを最近滅多に見なかったのですが、二人は仲良しさんですね。
せめてあの二人の話が終わるまで待っていましょう。
「何言ってるんですか！」
従兄くんが叫ぶ。さっきのせいか感情的になっているよう。
「このまま学校に通い続ければ、半年も待たずに死んでしまいます！」
「その時は、その時だよ―――――」
逃げろ。
ドクリと心臓が波を打ってからは早かった。
走ることのできない身体は何度も転んで痛かったけどそんなことはどうでもいい。
どうでもいいどうでもいい。
見ていない……私は何も聞いていない……。
聞えない。謝りになんて言っていない。どこにも言っていない。
寝てた。ベッドで寝てるんですいつも通り。だから走る。走れ。
何度も転んだ。こけた。頭も打った。腕も打った。全身も打った。
のた打ち回りながら戻る。
私は知らない馬鹿でいい。馬鹿がいい。
「ぅ……」
扉は開く。白くて何でもあって何にもない部屋。一年前の私の世界のすべて。
「ぅぅぅ……ォ゛エ゛」
赤い。真っ白な床が赤い。
あれ、何で。なんででしょう。怖い。涙が止まらない。
死ぬの？ 私、死ぬの？ 半年後に……みんなと卒業する半年後……みんなが卒業する半年後。
全てが崩れていく。殺せんせーに教わった色んな職業の話。みんなが教えてくれた高校の話。
考えたくないのに、頭が考えて、どんなに拒絶しても結果は出てしまう。
手のひらを通り抜けていく。
もうすぐ死ぬのなら、何で私に退院だなんて嘘を吐いたんですか……。何で私を学校に行かせて、夢を持たせて、希望を持たせて……。
私は結局敗者でしかない。走ることもできない。声も出せない。
段段と学校に行く日も減っていって……。
『その時はその時だよ』
叔父さんにとって……従兄くんにとって……私は家族ですらないんですか。
もうすぐ私は死ぬんですか。もうすぐ、死ぬ……死んだら終わり。何もかも無意味。
たとえ暗殺できたとしても、私に未来は訪れない。
じゃあなんで、私は今まで生きてきたの。
ようやく始まったのに。外に焦がれて、13年もずっと……ずっと。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 5人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
