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お互いにイスに腰掛けると、高見野が先に口火を切った。
高「結論から言いますと、走井はうちの部の人間から嫌がらせを受けている可能性があります。」
裏道がピクリと小さく反応する。
裏「…相手は分かっているんですか。」
高「恐らく同じ部署の彩色という者かと思います…が、断定は出来ません。」
裏「確証は取れていないという事ですか?」
高「仰る通りです。あくまで僕の見解と、走井の同僚から聞いた話のみです。」
裏「…Aさんに直接聞いたりしてみたんですか?」
高見野は少し黙った後、苦笑しながら目線を外した。
高「聞いてみました。…そしたら「私が鈍臭いので面倒みてくれいるだけです」…と。」
裏道は大泣きしたAを思い出す。
あれだけ抱え込んでいるのに、それでも誰にも踏み込ませないのか。
裏(ああ…Aさんはどこまでも)
裏「…しょうがない奴ですね。」
それは本人も気付かないような小さな優しい笑み。
それを見た高見野は一瞬驚いたが、裏道の笑みにほっと一息ついた。
高「…えぇ、まったく困った奴です。…ですが、ママンとトゥギャザーで仕事をするようになってから随分と変わりましたよ。」
裏「そう…なんですか?」
高「…普段は仕事を詰め込んで1日を過ごす事が多く、そこに本人の感情が乗る事はありませんでした。それが…ふふっ、」
高見野はふと思い出して、笑いが込み上げた。
高「普段は何でも1人でこなすアイツが、一度だけ俺に頼ったんです。…貴方達の為に。」
裏「え、」
高見野はおかしそうに口元を軽く隠しながら、裏道を見る。
高「夏に「外で冬服でロケをするから業務用クーラー使用許可書をよこせ」なんて、必死な顔をしながら俺に言いに来たんです。初めてですよ、あんな表情をするの。」
裏道は極寒スパイラルの時に持ってきた機材の事を思い出した。汗だくになりながらニコニコしながらテキパキと仕事をこなす姿が今でも覚えている。
裏「俺達の前だとよく笑いますし、怒ったりもするので、逆に高見野さんが言っている姿が想像出来ないですね。」
高「ええ、なので皆さんになら今後の事をお願い出来ると思いまして。」
裏「お願い…ですか。」
高見野はテーブルに伸ばしていた手をぐっと握りしめた。
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作者名:水無月(みなづき) | 作成日時:2023年10月14日 12時